ガン細胞に対する免疫細胞のエフェクター群による免疫応答を表現する環境依存型モデルを導入した。これはガン細胞と周囲の免疫作用との競合結果に応じて系の状態推移を記述できる確率モデルである。そのスケール変換極限により出現する超過程を詳しく解析した結果、次の知見が得られた。 (1)超過程を定めるパラメータの1つであるドリフト項の符号により、ガン細胞強襲下における正常細胞の長時間生存性に違いが出る。 (2)超過程モデルは1次元では無条件に局所消滅性を呈するため、確率1でガン発症となり、2次元以上ではマルコフ系の性質の違いにより、ガン発症傾向(条件付き共存可)かガン発症確定かに分かれることが判明した。 (3)超過程モデルにおける2つのパラメータ(モデル決定因子)双方の値による違いは微妙で、ガン発症か発症傾向かに分かれ、またパラメータの値が同じでも空間次元の違いにより、ガン発症傾向か正常状態かと結果に差が出ることも判明した。 最後に、今まで考案したモデルとの効用を比較して、今回提案した確率モデルの方が免疫飽和性、局所消滅性、生存性及び環境考慮などすべての点において優れていることが導かれた。さらにモデルの性質を解析している中で、有用な評価式を得ることができた。それは系における生存確率をある正定数を用いて指数型関数と系の初期測度の簡単な関数系として近似的に表す評価式である。この近似式を用いると、初期測度の値が1に近いとき、モデルの確率過程が生き残る確率は正となり、初期測度の値が小さいと生存確率はゼロに近くなることが簡単に示せる。すなわち、モデルが創始者支配の様相を呈することを容易に証明することができた。
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