研究課題/領域番号 |
24540116
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
今野 紀雄 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (80205575)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子ウォーク / アダマールウォーク / グローヴァーウォーク / 極限定理 / ゼータ関数 / オープン量子ランダムウォーク |
研究概要 |
研究目的の特に量子モデルに関して以下のような結果を得ることができた.[1]量子ウォークの特に,1次元アダマールウォークのある領域の滞在時間に関する解析を行った.古典のランダムウォークの場合には,パラドックス的な逆正弦法則や一様分布定理などの結果が知られているが,それに対応する結果を得ることができた.[2]有限グラフ上の量子ウォーク,特に,グローヴァーウォークの場合に,その遷移行列と遷移行列の正の台に関する固有方程式の明示的表式を,佐藤巌氏のグラフのゼータ関数についての結果を援用することにより,求めることができた.この路線の研究は数年前から海外の研究者たちによってもなされているが,我々の結果は欲しい表現を得るという意味で決着をつけたものになっている.[3]有限系の量子ウォークは,例えばサイクルなど研究されていたが,有限区間上の量子ウォークは,ほとんど研究がされていなかった.我々は,そのモデルに関する幾つかの弱収束極限定理を得ることに成功した.[4]1次元系の原点だけ量子コインを異なったものにした,空間的に非一様な量子ウォークモデルに関して,時間平均極限測度と弱収束極限定理を得ることができた.特に,このモデルは解析が難しいモデルに属しているが,母関数法と組合せ的手法を上手く組み合わせることにより,求めたい結果を得ることに成功した.[5]オープン量子ランダムウォーク(Open quantum random walk)はごく最近 Attal達によって導入されたモデル量子モデルで,その詳細で具体的な結果は充分に得られている状態ではなかった.我々はある種の双対性の関係を発見し,それを用いることにより,様々な場合の弱収束極限定理を得ることができた.特に典型的なモデルに対して,フーリエ解析を援用し,その極限定理を得ることもできた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の「確率モデル」「量子モデル」「複雑ネットワーク」の3本柱のうち,「量子モデル」に関しては,量子ウォークやオープン量子ランダムウォーク(Open quantum random walk)の量子モデルに関して,種々の結果,特に,極限定理を得ることができたのは成果と言える.「複雑ネットワーク」との関係では,有限グラフのあるクラスの上のグローヴァーウォークの場合に,その遷移行列と遷移行列の正の台に関する固有方程式の明示的表式をゼータ関数についての結果を援用することにより,求めることができたのは,今後,より複雑なグラフ上の量子モデルを研究する上での大きな一歩であったと考えられる.また,有限区間上の量子ウォークは,ほとんど研究がされていなかったが,そのモデルに関する幾つかの弱収束極限定理を得ることに成功した.この知見を活かし,グルードツリー上の量子ウォークモデルの解析などの足掛かりとなり得ると考えられる.このように,「量子モデル」と「複雑ネットワーク」に関する研究については進展がみられ,おおむね順調であると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「量子モデル」と「複雑ネットワーク」に関する研究を主に行っていきたい.具体的には「量子モデル」に関しては,量子ウォークの一般の初期条件での挙動,量子ウォークの極限密度関数とそれが満たす微分方程式,特にホインの微分方程式との関係,量子グラフに関連する時間発展方程式系と量子ウォークとの関係,特に,時間発展方程式系の定常解の係数と量子ウォークの遷移行列との関係,1次元二相系の量子ウォークの時間平均極限測度と弱収束極限定理,さらには,多次元多相系の量子ウォークの挙動,グルードツリー上の量子ウォークの時間平均極限測度の解析,多次元正方格子上のグローヴァー量子ウォークの局在化と極限定理,有限グラフのあるクラス上のグローヴァーウォークの遷移行列と遷移行列の正の台に関する詳細な性質,オープン量子ランダムウォークの大偏差原理などの研究課題である.特に「複雑ネットワーク」との絡みで考えると,複雑な構造を持ったツリー上の量子ウォークの時間平均極限測度の解析,多次元正方格子上のグローヴァー量子ウォークの局在化と極限定理,有限グラフのあるクラス上のグローヴァーウォークの遷移行列と遷移行列の正の台に関する詳細な性質の研究が,複雑ネットワーク上の量子ウォークモデルの解析につながっていくと考えられる.「確率モデル」に関しては,特に,確率セルオートマトンの相関関数のグラフ表現が知られているが,それに関連するグラフの性質についてはほとんど知られていない.したがって,そのグラフの構造を母関数などを使って調べることにより,逆に「確率モデル」とそれに対応する「量子モデル」との関係を明確にし,さらに量子モデルの性質についても解析したい.このような研究の背景に,グラフのゼータ関数の種々の性質が反映しているとしたら,大変興味深い研究になり得ると考えられる.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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