|
生物個体群ダイナミクス(生物の個体群サイズ[総個体数や密度など]の時間変動の様相)に関して，数理生態学の歴史においてほとんどが独立に構築され，理論的研究に用いられてきた非線形差分方程式系による離散時間モデルと非線形微分方程式系による連続時間モデルの間の連関性を数学的に検討し，離散時間モデルや連続時間モデルの構造（関数形 etc.）の合理性［生物現象の構造との論理的な整合性］について数理的な考察を体系的に行うことによって，新しいモデリングのための数理的基盤を提供するとともに，そこに現れる新たな数理的課題に取り組んできた。これまで独立に研究されてきた連続時間モデルと離散時間モデルの間の連関性に関する数理的な研究は希有である。しかし，それに数理的なメスを入れることによって得られる知見が，より適切で合理的な数理モデリングの考え方を提示するために重要な数理的基盤を与えてくれるはずである。
本最終年度では，これまでの本研究課題で得られた成果を応用し，現代生態学において，特に保全生態学の理論に応用されることの多いメタ個体群ダイナミクスモデルの数理モデリングを再検討することに成功した。その結果，従来の古典的モデルが限られた条件下でのみ数理モデルとしての合理性を満たし，より一般的な数理モデルでは，これまで知られていなかった非線形項が現れることを示した。成果については，国際学術誌に発表（受理済み）するとともに，近々に出版される数理生物学の専門書に収める予定である。
|
