研究課題/領域番号 |
24540135
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
内山 成憲 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (40433172)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 暗号 / アルゴリズム |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度に引き続き代数的アルゴリズムの中でも有限体上定義された代数曲線のペアリング計算とその応用、さらに格子の中の十分短い長さのベクトルを求めるアルゴリズムによる素因数分解問題の困難さに基づく公開鍵暗号系の安全性解析を行った。具体的には、Elliptic Net と呼ばれるペアリングの計算に用いることが出来る写像の計算アルゴリズムの解析を行い、fixed argument と呼ばれるものに対する一つのアルゴリズムの高速化を与え、それを実装により確かめた。また、Edwards curve と呼ばれる楕円曲線の一つの標準形に対するスカラー倍算の計算アルゴリズムについての解析を行い、実装により効果を確かめた。さらに、Dickson多項式と呼ばれる有限体上の置換を与える多項式写像の研究から導入された多項式を用いた素因数分解問題の困難さに基づく公開鍵暗号の安全性解析を行った。これは、現在広く使用されているRSA暗号の一般化ともみなせる暗号方式であり、RSA暗号では秘密鍵のサイズが十分小さい場合に、格子の中の十分短い長さのベクトルを求めるアルゴリズムであるLLLアルゴリズムと呼ばれるものを用いた効率的な攻撃法が知られており、その類似的な手法をDickson多項式を用いた暗号方式に対して提案し、実装によりその効果を確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代数的アルゴリズムの暗号への応用研究では、ペアリング暗号は現在非常に注目されている。その効率的な計算アルゴリズムとしてはMillerによるアルゴリズムが主として使われており、その計算の高速化の研究も進んではいるが、別の効率的な計算手法に基づく研究はあまりなされていなかった。一方で、Stange によって提案された Elliptic Net や Elliptic Divisibility Seqence と呼ばれる写像、数列を用いる計算手法がMillerによるアルゴリズムとは異なるものを与え、その高速化について研究することは新しい暗号方式の応用研究にもつながる可能性もあり、重要なトピックであると考えられる。また、高速化という観点からはその基づく曲線そのものをどういったクラスのものを用いると良いのかについての研究も重要であり、Edwards curve というクラスの曲線の演算の高速化研究も最適なものを探る際の重要なクラスの一つであると考えられる。さらに、素因数分解問題の困難さに基づく公開鍵暗号方式の安全性解析は様々あるが、Dickson多項式を用いた暗号方式に対して、格子の中の十分短い長さを持つベクトルを出力するアルゴリズムであるLLLアルゴリズムを用いた安全性解析は今までなされておらず、今回の結果は格子への埋め込みの際の最適化等のついての新たな課題を提供したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今までと同様に、代数的アルゴリズムの中でも代数曲線に関するアルゴリズムや多項式環、格子に関するアルゴリズム等の計算量的な観点からの解析を行いたい。一方で、既存の暗号方式の要素技術となる素因数分解、離散対数、素数判定等に関連するアルゴリズムも新しい暗号方式への応用も見据えて継続して実施していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定であった暗号に関する研究集会2015年暗号と情報セキュリティに関するシンポジウム(SCIS2015、2015年1月 北九州市)に参加することが出来ず、そのための参加登録料や旅費を使用しなかったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は上記の予算を含め、以下の使用計画を予定している:計算量的に困難な代数的アルゴリズムの解析を進めるために専門家との議論及び情報収集は欠かせない。このため、国内出張を2回程度(10万円)及びアメリカ西海岸で開催される暗号の国際会議CRYPTO等への参加のための海外出張1回(30万円)の合計40万円程度が旅費として必要と考える。また、計算機やソフトウエアの購入として25万円程度、アルゴリズムや数学関連の専門書の購入に5万円程度、合計30万円程度の物品費が必要。さらに、プログラミングや数値実験を行うためにアルバイトの雇用や専門的知識の提供のために専門家の招聘などの謝金に20万円程度を予定している。また、国内外の会議への参加の際の参加登録料として5万円程度を予定している。
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