21世紀は感染症の世紀と呼ばれ,新型インフルエンザ,エイズ,エボラ出血熱のような深刻な感染症が人類を脅かしている.特に日本はヒト成人T細胞白血病ウイルス(Human T-cell Leukemia Virus of Type I;略称HTLV-I)の感染者が都市部で急増しており,公衆衛生上の重大危機に直面している.人口集中効果を組み込んだ実証性の高い数理疫学モデルを構築し,そのモデルを用いてシミュレーションを行い,今後10年間の国内におけるHTLV-Iの感染拡大を予測することが,本研究の目的であった.都市部への人口集中が感染拡大を促進しているHTLV-I特有の疫学現象を統計的手法を援用した新しい関数解析的手法により解明することに成功し,次の3つの結果を得ることができた. 1. 実証性の高いHTLV-Iの数理疫学モデルを構築することができた. 2. 導出されたモデル方程式の大域解の挙動を数値解析的・数理解析的に解明し,予想命題『人口密度関数が超関数の意味でデルタ関数に収束するならば,ウイルス罹患率は人口が集中する点の近傍で1に広義一様収束する』を球対称解の場合に証明できた. 3. 我が国におけるHTLV-Iの感染拡大を予測するための基本的なアルゴリズムの構築に成功した.このシミュレーションを実行するために,統計学的手法を用いて計算の場合分けを大幅に減らす方法を確立した. これらの1と2の数学的基礎理論は既に刊行した論文で公表されており,3については論文としてまとめて統計的内容は医療統計学の学術誌(Statistics in Medicine)に投稿し現在査読中である.計算手法については論文としてまとめて数値計算の学術誌(Applied Mathematics and Computation)に投稿し現在査読中である.
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