研究課題/領域番号 |
24540151
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
中尾 充宏 佐世保工業高等専門学校, 校長 (10136418)
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研究分担者 |
木村 拓馬 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員 (60581618)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 精度保証付き数値計算法 / 解の数値的検証 / 解の事後誤差評価 / 非線形発展方程式 / 計算機援用証明 |
研究概要 |
発展方程式として放物型方程式を対象に、解の精度保証方式を検討するとともに、その基礎ともなる楕円型方程式の解に対する精度保証方式の改良も行い、次の成果を得た。なお検討に当っては、研究分担者木村拓馬(早稲田大学)および研究協力者の木下武彦(京都大学)、渡部善隆(九州大学)との協力体制で進めた。 (1)最も単純な線形放物型方程式の初期境界値問題に対し、その全離散近似解を与える新しい有限要素スキームを提案し、それに対する構成的a priori誤差評価定数を算定した。この方式は、半離散化後の線形常微分方程式系に対して、基本解行列を用いた時間補間によって構成的誤差評価を得るものであり、従来得られていた結果と比較して、その計算効率を格段に向上させるものであることが数値例により立証できた。 (2)非線形放物型問題に関する解の検証で重要となる線形化逆作用素のノルム評価について検討し、一般的な線形放物型方程式の解に対する構成的a priori評価法を与えた。これは(1)の成果を援用するものであり、Newton型数値的検証法の定式化とプロトタイプな非線形放物型方程式への適用例を与えた。その結果は、当初の期待以上に有力なものであることが明らかになり、国内外の研究に対して大きなインパクトを与えつつある。 (3)ある種の常微分方程式の初期値問題に対する近似スキームでは必ずしも直感と一致しない不安定性が生じることを、理論的に実証した。直感からは予想できない意外性のある結果である。 (4)非線形楕円型問題の解の数値的検証においては、線形化逆作用素のノルム評価が重要であるが、研究代表者らが開発した固有値の除外(excluding)手法を用いて、その効率よい、計算法を与えた。その実例によって、これは従来手法から見ても大きな計算コスト削減が期待できるものであることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(理由) 数値的検証法の研究は、偏微分方程式の場合には、従来から研究代表者(中尾)の研究グループが世界的な先駆的成果を上げてきた。我が国はこの分野の研究で世界をリードできる研究の歴史と陣容とを有しており、またリードすべき立場にもある。楕円型方程式の場合には、世界的に見ても既に多くの実用レベルの研究がなされており、代表者らの研究手法も確立・定着してきたが、発展方程式に対しては、組織だった研究は世界的に見ても例がほとんど無く未だ萌芽期の状況である。このような状況の下で、簡単な線形熱方程式に対する全離散型有限要素解の構成的誤差評価を導き、その結果を用いて非線形発展方程式の解に対するNewton型数値的検証法の定式化とプロトタイプな非線形放物型方程式への適用例を与え、この種の研究の先便を着けたことの意義は極めて大きい。これは、代表者らが楕円型方程式の解の数値的検証に適用してきた精度保証の原理が、そのまま発展方程式に対しても適用可能であることを立証するものであり、波及効果として、今後この分野における組織的研究が急速に展開することを強く示唆するものである。 実際、既にその成果は国際的に著名な論文誌に掲載が受諾されており、また代表者が緊密に情報交換してきたドイツ・Karlsruhe大学のPlum教授なども国際会議を通じてそのアイデアを大いに賞賛している。このように、研究実績は国際的にも多大のインパクトを与えつつある。これらの事実により、既に本研究実績は、「楕円型方程式で確立された数値的検証の技法を、非線形放物型方程式をはじめとする発展方程式に対して拡張し、その有効性を実証することにある。」という、研究全体の目的達成を早くも予想させるものであり、研究は当初の計画以上に進捗していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の研究実績を踏まえて、研究分担者および研究協力者とも連携して、次の課題を設定して、新たな検討を行う。 (1)前年度得られた、簡単な熱方程式の有限要素解に対する構成的a priori誤差評価における評価精度の改良の可能性を検討する。 (2)周期境界条件の下での放物型方程式の解の精度保証方式について、その検証定式化とprototypeな問題について検証数値例を与える。 (3)実際の自然現象を記述する発展型反応拡散方程式の解や、パターンの形成、あるいは進行波解の存在など、応用解析学上の重要問題を数値的に検証することによって研究成果の有用性を実証する。 (4)流体の数理モデルとして重要な、発展型Navier-Stokes方程式に対する解の数値的検証法の定式化を試みる。このために先ず発展型Stokes方程式の解を精度保証で求める必要がある。今年度は定常問題の解の数値的検証法の非定常問題に対する拡張可能性について検討を行う。 (5)定常問題(楕円型方程式)も含めて、これまでに開発・実装された各種数値的検証法の適応性を評価するとともに、その改良を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
(次年度の研究費の使用計画) 本研究費が生じたのは、24年度に購入予定のPCが不要となったこと、研究打合せやシンポジウムのキャンセルあるいは期間の短縮によるものである。 これらの経費は、25年度におけるPCの購入および、25年度に開催予定のシンポジウム参加経費等に充当する予定である。
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