研究概要 |
今年度の主たる研究成果は,stochastic maximal inequality を証明し,それを用いて,無限次元マルチンゲールに対する中心極限定理を大幅に改良したことである.その応用として,次の二つの統計的課題の研究を行った. (1) 従来より取り組んでいる確率過程の変化点問題の更なる研究を行った.論文 Negri and Nishiyama (AISM, 2009) において,拡散過程モデルの連続観測データに基づく新しい検定手続きを提案したが,これを,拡散過程の離散観測の場合や,点過程(計数過程)モデルに対しても適用できるように,理論を改良・発展させた.具体的には,新しく構築した確率場の弱収束理論を援用して,極限がブラウン運動の mixture になるような場合も扱うことができるように改良することに成功した. (2) セミパラメトリック推定問題における新しいアプローチを考案した.セミパラメトリックモデルとは,興味あるパラメータは有限次元であるが,これに無限次元の攪乱パラメータが混入しているモデルのことである.具体的には,拡散過程モデルにおいて,ドリフト項を興味ある有限次元のパラメータでモデルを立て,拡散係数(関数)を無限次元の攪乱パラメータと見なすような状況を考える.このようなモデルにおいては,いかにして無限次元の攪乱パラメータを消去するかということがポイントとなる.論文 Nishiyama (Ann. Stat., 2009) では,そこに無限次元の一致推定量をプラグインすることを提案し,一定の成果を挙げたが,その理論は Cox 回帰モデルのように,有限次元・無限次元の2種のパラメータが直交していない場合には適用できなかった.今年度では,この点の改良に成功し,その果実として,Cox 回帰モデルでの新しい推定量を導出することができた.
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