研究課題/領域番号 |
24540169
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菱田 俊明 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (60257243)
|
キーワード | 非圧縮粘性流 / 減衰構造 / 外部問題 / Stokes流 / Oseen流 / Navier-Stokes流 / 自己相似解 / resolvent |
研究概要 |
非圧縮性粘性流体の中に剛体の障害物があるとし、その物体の運動が周りの流体の運動、特に時空変数についての減衰構造にどのように影響するのかを数学的に明らかにすることが目的であるが、物体が回転運動する場合、並進運動する場合のそれぞれに対して、以下のような成果を得た。 空間2次元であって物体が一定な速度で並進するときの線型化方程式の初期値境界値問題の解は Oseen半群で記述できるが、これの減衰評価を証明した。resolvent パラメ一タが原点の近くのときに対数特異性をもつことが空間3次元にはない2次元特有の困難であるが、本研究では Oseen resolvent の全平面での基本解を明示的に表示し、その漸近挙動を詳しく解析した上で、外部問題のresolventのスペクトル解析を行い、局所エネルギ一評価の導出を通して、結論を得た。空間3次元であって物体が一定な角速度で回転するときのNavier-Stokes流の解析の現時点での到達点をまとめたものも AMSの Sugaku Expositionsから出たが、主な結果は定常解の安定性と空間無限遠での漸近挙動である。安定性の解析では主要部の生成する半群の長時間挙動が本質的であった。また、定常解の無限遠での漸近展開の第一項として自己相似解がどのような原理で選択されるのかを示した。 空間2次元であって流れの占める領域が上下半平面とそれらを連結する通路からなるときには、通常の境界条件のもとでは解が一意に定まらず、通路での流量を指定することで一意解を得られることが特徴的である。この問題の定常解や時間周期解が安定となるための判定法を与えた。また、3次元全空間において、自己相似解や時間周期解等の時間に依存した解があるクラスで小さいときの大域的安定性を示し、また初期擾乱のクラスに応じた擾乱の L_2ノルムの減衰度を求めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は障害物の運動とその周りでの非圧縮粘性流の減衰構造との関係を明らかすることを目的とし、またその応用として運動する物体とその周りの流れの相互作用を数学的に解明することも視野に入れたものである。空間3次元の場合、物体が並進するときの先行研究はあったが、本研究によって回転するときの解析も進んだ。空間2次元の場合は、並進するときであっても先行研究は定常解に関する結果だけであったが、本研究によって線型化方程式の初期値問題の長時間挙動についての知見が得られた。 物体が並進するときに空間2次元が3次元よりも特に難しい理由は、対応するresolvent問題の解の resolventパラメ一タが原点に近づくときの対数特異性の制御であった。得られた L_q-L_r評価の並進速度についての依存の仕方について改良の余地があるが、Navier-Stokes方程式の定常解の安定性/不安定性の解析へ向けた第一歩になりうると考えている。特に、鍵となった基本解の表示の導出とその漸近挙動の解析自体が、この方面の今後の研究の基礎となるであろう。 主流が定常解ではなく時間に依存するNavier-Stokes流であるとき、その安定性の解析は難しい問題である。時間依存流としては、自己相似解、時間周期解、一般な時間大域解を念頭におき、妥当なクラスで小さいとするが、主な困難はそのような主流の周りでの線型化作用素の生成する発展作用素の減衰構造の解析である。まずは、障害物のない全空間での問題に対して、その主流の安定性と擾乱のエネルギ一減衰度を明らかにできたことは成果であり、同様な解析を外部問題で展開できる可能性を示唆している。流体と物体の相互作用の研究に対しても、単に解の存在を主張するにとどまらず解の漸近解析も行うことを目指しており、一般に主流は時間に依存するので、本年度の成果が寄与すると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究について、主流が自己相似解、時間周期解などのように時間依存であるときの安定性と擾乱の長時間挙動に関する本年度の成果を外部問題へどの程度拡張できるのかを調べる。特に擾乱の減衰構造について、主流が自明解のときには全空間と外部領域で真に異なる現象が知られているから、主流が非自明のときにはその現象がどうなるのかを明らかにしたい。 また、2次元外部領域におけるOseen半群のL_q-L_r評価の定数の並進速度についての依存の仕方を改良することも目指す。特に、並進速度が小さいときに並進速度ゼロのStokes半群の場合と連続につながるような評価を確立する。その上で、Navier-Stokes方程式の定常解の安定性/不安定性の解析を行う。さらに、2次元外部領域で障害物が回転する場合に、その振動効果による Stokesの逆理の解消が当研究計画の1年目で示されていたが、回転角速度をゼロに近づけるときの解の挙動も明らかにして、非線型問題の解の構成に応用する。 流体と物体の相互作用の問題についても、特に流体が2次元全平面、3次元全空間にひろがる場合に、これまでの外部問題の成果をふまえて、時間局所解と時間大域解、また物体に固定した座標系から見て定常的な解の存在を示し、それらの時空変数についての漸近挙動を調べる。 研究遂行のために最も必要なことは、当分野の世界中の研究者との討論であるので、今後も研究計画の中心は海外渡航費、国内出張旅費と海外研究者の招聘費である。実際、5月にフランスとロシア、10月にドイツでそれぞれ開催される国際会議に出席して、これまでの研究成果を発表し、さらに今後の展開について議論する。さらに、流体と物体の相互作用の問題について、フランスのNancyのグル一プとの共同研究を開始したので、私がNancyへ行くか、あるいは彼らを日本へ招聘し、討論を継続して研究を完成させる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
予定通りに海外渡航、国内出張を行い、また学内セミナ一での外国人講演者2名に講演謝金も支払った。これらによりだいたい使い切ったが、図書等の物品を購入しなかったので、少し残額が生じた。 上記のように、5月にフランスとロシア、10月にドイツでそれぞれ開催されるNavier-Stokes方程式関連の国際会議に出席し、またフランスのNancyの共同研究者を日本へ招聘、あるいは私がNancy へ渡航して研究討論を行う。これらに使用する予定である。
|