研究課題/領域番号 |
24540173
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
柳沢 卓 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (30192389)
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キーワード | 分解定理 / 磁気流体力学方程式 / 境界値問題 / 定常問題 / Navier-Stokes方程式 |
研究概要 |
分解定理に用いた解析手法を流体力学及び電磁気学に現れる具体的問題に適用しその実効性と克服すべき問題点を明らかにすることを目的に,以下の研究を行いました. 1.昨年度得た定常磁気流体力学方程式の非斉次境界値問題に関する研究結果において,境界条件の設定が物理学的観点から不自然であることが分かったので,その修正を行いました.具体的には,オームの法則と組み合わせることにより,磁気流体力学方程式に(見かけ上の)電場を取り入れ,境界条件を電場の接線成分と磁場の法線成分及び速度場に課す形に設定し直しました.このことにより,物理的にも自然な非斉次境界値問題となりました.次に,この非斉次境界値問題の弱解の存在を以下の手順で示しました: (1) 接線方向トレースからなる空間の完全な特徴付けを行うことにより,電場の接線成分に対する境界データの函数解析的取り扱い方法を明確にしました. (2)(1)の結果を用いて適切と思われる弱解の定義を与えました. (3)弱解に関連する弱形式のcoercivenessを示し,弱解の存在を示しました.その際,領域に対する不自然な制限を除く為には,従来の分解定理を若干改良したものを磁場評価において適用すれば良いことが分かりました.更に,磁場を含む非線型項に対しては,流体力学において有効であったcut-off 関数とHardyの不等式による評価法が適用できないことが分かり,Hardyの不等式を経由しない新たな評価法を導入しました. 2.領域および解空間に適当な対称性を課した時の定常Navier-Stokes方程式に対する非斉次境界値問題について考察しました.具体的には,調和ベクトル空間の自明性と上記問題に対する存在定理の関係を統一的に明らかにする試みを行いました.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた定常磁気流体力学方程式の非斉次境界値問題に対する研究により,電磁場の効果を考慮した場合には,流体力学に現れる方程式に対して従来有効とされてきた方法が適用できなくなるような電磁現象固有の問題点が現れることが明らかになってきました.特に,定常磁気流体力学方程式に対する解析を困難にしている点の一つである磁場と速度場データに関連する項の評価においては,定常Navier-Stokes方程式に対して有効であったHardyの不等式を用いた方法は適用できないことが分かりました.現在までのところ,既存のいくつかの結果を組み合わせることによりHardyの不等式を経由しない方法でこれらの項を評価することが出来ましたが,得られた存在定理においては,速度場データの法線成分が境界上で各点的に0となるというかなり強い条件を課す必要が出てきました.この条件が電磁現象を考慮する際自然に現れる制限なのかどうかは不明です. また,領域に対する不自然な位相的制限を除く為には,我々がこれまで用いてきたHelmholtz-Weyl分解におけるベクトルポテンシャルの属する空間を改良すれば良いことも明らかになりました. このように,当該年度の研究においては,分解定理に基づく流体及び電磁気現象の統一的解析方法の展開に向けての新たな課題と知見が得られたので,研究目的の達成度は「おおむね順調に進展している」と判断しました.
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今後の研究の推進方策 |
1.昨年度に得られた定常磁気流体力学方程式の非斉次境界値問題に対する存在定理における速度場データに対する条件が適切なものかを検討します. 2.上記存在定理で得られた定常解の安定性と滑らかさに関する考察を行います. 3.領域および解空間に適当な対称性を仮定した下で,定常Navier-Stokes方程式に対する非斉次境界値問題の存在定理と調和ベクトル空間の自明性との関係を明らかにする試みを行います.
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