前年度に引き続き、複素葉層構造を持つ多様体上の有理形関数の値分布を研究した。前年度では、特異点を持つ場合で各葉が双曲的リーマン面になっている場合を取り扱ったが、本年度では、これを高次元のケーラー多様体に拡張した場合を考察した。双曲的リーマン面は、ポアンカレ計量から誘導される曲率-1の完備な計量を持つが、これを断面曲率が負定数で挟まれるような完備ケーラー計量を持つ場合に置き換えた。このような仮定の下では、この計量に対応する葉上の正則拡散過程は、双曲リーマン面の時に近い性質を持つことがわかる。これを利用して、葉に沿った有理形関数、すなわち、空間全体では1次元複素射影空間へのボレル可測写像であり、各葉上では正則写像となっているものに対して、次のようなピカール型定理を得た。正値調和カレントとの存在と対応する調和測度のエルゴード性を仮定する。この時、葉に沿った非定数有理形関数の除外点は高々有限個である。特に、前年度の研究において導入した写像のエネルギーが同様に定義され、これが無限大の時は、除外点の個数は高々2である。 問題1についての前年度の結果については、論文にまとめ投稿中である。今年度の結果についてはすでに論文にまとめており、近日に投稿予定である。問題2については、前年度の結果を再検討し、論文執筆中である(完成次第投稿予定)。
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