研究実績の概要 |
本研究の目標は、超離散可積分系の研究に使われている表現論や組み合わせ論、またはトロピカル幾何学を逆散乱法の観点から統一的に扱うこと、及び (max,+) 代数に関する最新の研究成果を取り入れることにより、超離散可積分系を、連続系や離散系の数理に頼らずに考察することである。特に、超離散的逆散乱法における散乱データとrigged configurationという手法で得られるデータとの関係を解明すること、超離散可積分系に付随する線形方程式系のスペクトル問題における波動関数やスペクトルの特徴づけを行い、ダルブ ー変換のスペクトル曲線等への作用を解明すること、又は超離散QRT写像等とそれらの保存量が定めるトロピカル曲線の分類を行うことを目的とする。本年度は、このプログラムに関して以下の具体的な研究成果を得た。
1. 超離散sine-Gordon方程式には、ソリトンの分裂と融合のような現象が存在することは約15年前から知られている。その現象の初めての数学的記述は本研究計画の最も重要な研究成果である。本年度、この方程式の整数上のコーシー問題を完全に解くことができ、さらに有利数上のコーシー問題についても部分的な結果を得ることができた。 2. QRT写像の非自励的な拡張からブローアップで構成できる初期値空間の構造を考察し、この結果を踏まえて、複素射影平面上の一般的な双有利写像の可積分性を見極めるための新しい判定法を提唱することができた。写像の代数的エントロピーが特異点閉じ込め法から得られる簡単なデータのみで計算できることはこの新しい方法の一番大きな利点である。 3. KdV方程式の有利関数解と密接な関係を持つBurchnall-Chaundy多項式を離散化し、その多項式に対する新しいLaurent現象を発見した。この結果は離散パンルヴェ方程式の新しい構成法と密接につながると思われている。
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