研究計画に掲げた課題は、Ding-Iohara代数の表現論を用いて共形場の理論の差分類似を理解することであった。特に、BPZ方程式の差分類似と、Macdonald多項式(の一族)の明示的公式の組合わせ的構造に焦点を当てて研究した。以下、研究期間全体を通じて行った研究の成果及び最終年度のそれについて概略を述べる。 (1)超幾何級数に関するHeineの変換公式の楕円アナログを、Ding-Iohara代数の表現論(とそれに付随する幾つかの予想)を用いて導いた。そして、楕円超幾何級数の満たす差分方程式を(Macdonaldの差分方程式の楕円類似として)導いた。これらの結果は、共形場の理論におけるBPZ方程式の差分類似と解釈することが出来る。 (2)Macdonald多項式の一族の中で、特にBC型の対称性を持つAskey-Wilson/Koornwinder多項式の明示的公式の組合わせ的な構造とそれに付随した変換公式の一群を研究した。特に、Askey-Wilson多項式を4重級数に表示する公式は、本研究者と星野氏野海氏の行ってきた長い研究によって得られたもので、特に、Macdonald/Koornwinder多項式に関するLassalleの予想を解決する糸口を与えるために重要なものである。 (3)最終年度に実施した研究の成果としては、上記(2)と共に、Braverman、Finkelbergと本研究社が提案したMacdonald多項式の幾何学的構成法に関する予想(A型の場合はLaumon空間の幾何学を用いて証明が得られる)が挙げられる。そこでは、Drinfeldの擬写像空間に付随するperverse coherent sheafを用いて定義されたEuler characteristicがMacdonald差分作用素の固有関数となることが予想された。
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