研究課題/領域番号 |
24540209
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
愛木 豊彦 日本女子大学, 理学部, 教授 (90231745)
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研究分担者 |
村瀬 勇介 名城大学, 理工学部, 助教 (80546771)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 自由境界問題 / コンクリートの中性化 / コンクリートの腐食 / two-scale problem |
研究概要 |
「研究の目的」で次の3点(1.コンクリートの中性化現象,2.コンクリートの腐食問題,3.形状記憶合金)について数理モデルを導出し,解析することとした。1と2に対する成果は,それぞれ次の通りである。今年度,1と2に集中的に取り組んだため,3に関する成果を挙げることはできなかった。 1.コンクリート中性化現象に現れる水分の吸着過程を自由境界問題として表現し,その問題の解の時間に関する局所存在と一意性を証明することができた。また,この自由境界問題の近似解を求めるアルゴリズムを開発した。さらに,そのアルゴリズムで数値解が,ヒステリシス的な挙動を示した。このことから,このモデルが,今後,水分吸着過程を表現するモデルの候補の一つになりうる可能性を示したといえる。 2.コンクリートの腐食問題においては,ヒステリシス効果を無視した場合において,問題の適切性と解の時間無限大での強収束を証明した。その過程で,定常問題の解の存在と一意性も得ることができた。当初,この問題では,コンパクト性が十分ではないと考えていたので,強収束を得られたのは,予定より進んだ結果である。 「研究実施計画」で述べた計画に従い,共同研究者と何度か直接討議をした。その結果として,上述のような数値解析に関する十分な成果を得ることができた。また,国際会議にも予定通り参加し,成果を発表するとともに,外国人研究者との交流を進めることができた。特に,チェコのKreiji教授との討議により,コンクリート中性化問題に対する新たな課題を発見することができた。これについては,次年度に集中的に取り組む計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度,研究の目的(1.コンクリートの中性化現象,2.コンクリートの腐食問題,3.形状記憶合金)に対し,1や2が予定より良い結果が得られそうだったので,1や2に研究時間を大きく割いたため,3については十分な研究ができなかった。そのため,項目1,2に対する達成度について述べる。 1.コンクリートの中性化問題においては,水分吸着過程の新しい表現と従来の数理モデルに対する数学的結果に進展があった。より詳しく述べると,1次元領域上におけるヒステリシス効果を取り入れた水分吸着過程を記述する自由境界問題の導出に成功し,その適切性を証明することができた。また,解の時間無限大の挙動の解析に対するてがかりも見つかっている。さらに,数値解を得るための独自のアルゴリズムを開発できた上に,それを用いて数値解も得ることができた。そして,数値解のグラフから我々のモデルが,水分吸着過程の数理的表現としての有用性を示すことができた。また,これまで解の一意性が証明できなかったコンクリート中性化過程を表現する従来のある数理モデルに対しても,一意性を証明できる指針が得られた。これは,「研究の目的」には示さなかった内容だが,もし証明できれば,コンクリートの中性化問題を研究する上で,とても有効な結果といえる。 以上より,本項目については,当初の計画を十分に達成できる見込みである。さらにそれを上回る成果を得ることができるかもしれないという現状である。 2.ヒステリシス効果を無視した場合では,問題の適切性を示し,解が時間無限大で強位相で収束することまで証明できた。従って,当初の計画は,十分に達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,交付申請書に示した研究の目的(1.コンクリートの中性化現象,2.コンクリートの腐食問題,3.形状記憶合金)のうちの,1について重点的に研究する。その理由は,上で示したように,2についてはヒステリシス効果を無視した場合は,時間無限大における解の挙動を明らかにできるなど,予定していた内容を示すことができたからであある。また,1については,数値解法に関する新たな課題が見つかるなど,今後短期間において,成果を挙げることが期待できることも理由の一つである。 1に対する研究の推進方策を述べる。まず,今年度,コンクリート中性化の専門家であるドイツ・ブレーメン大学のボーフム教授と知り合うことができ,次年度,日本に招待することとなった。氏が日本を訪れた際,コンクリート中性化に関する討議の場を設けることで,本研究で考察している数理モデルの妥当性に対する示唆をいただくとともに,今後の研究の方向についても検討したい。このことで,本研究がより推進されるものと考えている。また,ヒステリシス効果を考慮したコンクリート中性化問題に関する若手研究者である苫小牧高専の熊崎耕太氏を同じ研究集会に招待し,講演していただく予定である。この交流によって,本研究の数学的解析がより進展していくことが期待できる。 1に関しては数値解法に関する課題も見つかっているため,数値解析を担当する研究分担者村瀬勇介氏と打合せを通して,研究を進めていく。 2と3については,3年目に成果を挙げられるよう,次年度も国際会議,学会や研究集会に積極的に参加し,最新の研究に関する情報を収集し,これらの課題に関する問題点を整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費として,全支給額90万円を使用する予定である。 (1)8月26日から30日まで,チェコのプラハで開催される国際会議”Equadiff13”に参加する。”Equadiff13”は,ヨーロッパの数学者が多数参加し,微分方程式に関する研究成果が発表される長い歴史をもった会議である。本会議に出席し,コンクリートの腐食問題に対する時間無限大での挙動に関する成果を発表し,海外の研究者たちと交流することで,今後の研究の方向性に対する示唆が得られるものと考えている。このための海外渡航費として,30万円使用する。 (2)10月21日から23日まで,京都大学数理解析研究所で開催される研究発表会に,ドイツ・ブレーメン大学のボーフム教授を招待し,講演をしていただく。ボーフム教授は,コンクリート中性化や腐食を表現する数理モデルを,世界に先駆けて導出し,研究を進めてこられた。そのような氏の講演やそれに伴う意見交換は,本研究の進展に有効であると考えている。また,同じく本研究集会に,コンクリート中性化に関する研究者である苫小牧高専の熊崎耕太氏を招待し,講演していただく。熊崎氏の講演も本研究遂行上,有用であると考えている。ボーフム氏の渡航費として30万円,熊崎氏の旅費として10万円,私の参加旅費として6万円を使用する。 (3)9月に愛媛大学で開催される日本数学会において,成果発表をする。そのための旅費として8万円を使用する。 (4)共同研究者の村瀬勇介氏と,研究打合せをするために,名城大学に行く。そこでは,数値解析に関する研究課題について討議する。そのための旅費として6万円を使用する。
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