研究課題/領域番号 |
24540209
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
愛木 豊彦 日本女子大学, 理学部, 教授 (90231745)
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研究分担者 |
村瀬 勇介 名城大学, 理工学部, 助教 (80546771)
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キーワード | 自由境界問題 / 準線形放物型方程式 / 無限大での解の挙動 / コンクリートの中性化 |
研究概要 |
交付申請書に記載した「研究の目的」において,1.コンクリートの中性化現象,2.コンクリートの腐食問題,3.形状記憶合金,について数理モデルを導出し,解析することとした。2については,前年度で十分な研究成果を挙げることができたので,今年度は,1と3について研究を進めた。今年度の研究成果は,それぞれ次の通りである。 1.前年度に,コンクリート中性化現象において重要な役割を果たす水分吸着過程を記述する数理モデルとして1次元自由境界問題を導出し,その適切性を示すことができた。今年度は,まず,時間無限大において,自由境界問題の解が収束することかどうかを,数値実験によって確かめ,収束するという予想を得た。そして,自由境界の成長に関し,より詳細な仮定を設けることで,自由境界が領域の内部に留まるという条件のもと,解が収束することを証明することができた。次年度は,自由境界が領域内部に留まるための条件に付いて考察する予定である。 また,多次元のコンクリート中性化問題を記述する方程式の一つである水分の質量保存を記述する準線形放物型偏微分方程式に対する初期値境界値問題の解の一意性を得ることができた。この証明において,準線形方程式の解の正則性の評価を利用している。 3.今年度は,以前,考察した炊飯器に属している形状記憶合金でできている栓の動きを記述する数理モデルの妥当性を検証するために,数値実験を行った。まず,第一段階として,そのモデルを単純化した常微分方程式を用いた数理モデルを取り上げた。その結果,このモデルの解の挙動は,予想していたものと大きく異なっており,従来のモデルを再構築する必要性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的(1.コンクリートの中性化現象,2.コンクリートの腐食問題,3.形状記憶合金)に対し,2については,当初の目的のうち,ヒステリシスを考慮しない場合については,前年度で達成できたので,今年度は2を除いた1と3について研究を進めた。その達成度は以下の通りである。 1.コンクリートの中性化問題においては,前年度に導出した水分吸着過程を記述する自由境界問題の解が,自由境界が固定境界近づかないという条件のもと,時間を無限大にしたとき収束することを証明することができた。次年度は,この条件が成り立つための十分条件を考察する予定である。また,数値実験から,解の収束速度が水分吸着度に対する仮定と関連があると予想できた。次年度はこの予想についても考察する。この予想は計画時には,気づいていなかったことである。さらに,3次元領域におけるコンクリート中性化問題においても,準線形放物型方程式の解に対する評価を適用することで,解の一意性を示した。これも,研究計画を上回る成果である。このように,1においては,当初の計画を大きく超える成果を上げることができている。 3.形状記憶合金問題に対しては,従来のモデルの妥当性を検証するために,まずは,単純化した常微分方程式によるモデルに対し数値実験を行った。その結果,解の挙動が予想と大きく異なることがわかり,現象をもう一度見直し,モデリングをし直さなければいけないことが分かった。そのため,3については,次年度に当初の計画の大幅な見直しを予定しており,当初の計画通りには進んでいるとはいえない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策を,3つの課題(1.コンクリートの中性化現象,2.コンクリートの腐食問題,3.形状記憶合金)ごとに述べる。 1.これまで,当初の研究計画に示した水分吸着過程を記述する新しい数理モデルを導出するという目的は,ほぼ達成できている。次年度は,当初の計画を上回り,新しい数理モデルである自由境界問題の解の時間無限大での挙動をより詳細に考察する。特に,解の収束速度とデータとの関連は,これまでの偏微分方程式の研究には見られなかった問題である。次年度は,このことを明らかにするために,数値実験を行う。そして,予想をより確かなものとする。解の挙動を解析した後に,当初の目的としていた3次元問題への適用についても考察したい。 2.ここに示したコンクリートの腐食問題に対し,ヒステリシスを考慮しない場合については,当初の研究計画に示した研究目的以上の成果を既に得ている。そのため,今年度はこの問題に対し,時間を割かなかったが,その導出で用いた領域の均質化問題に対する理解を深めることができた。このような経験から,腐食問題においては,ヒステリシスの影響よりも物質の微細構造の解析が重要であることが分かってきた。このことを,次の研究につなげ,現象から生じる問題の解決に,より数学を役立てていきたい。 3.今年度の研究結果から,従来モデルが,現実にあまり適合していないことが明らかとなった。 以上より,本研究も残りあと1年となり,次年度は重要な成果が見込める1について研究を進めるとともに,本研究から生じた課題をまとめ,次の研究課題につなげていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
残額がわずか66円だったため,次年度に繰り越すことにした。 繰越額がわずか66円なので,物品費としてこれを使用する。
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