研究課題/領域番号 |
24540211
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
角 大輝 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40313324)
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研究分担者 |
佐藤 譲 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (30342794)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ランダム複素力学系 / フラクタル幾何学 / ジュリア集合 / ハウスドルフ次元 / 協調原理 / 複素特異関数 / 横断性条件 / エルゴード理論 |
研究概要 |
主に(1)ランダムな多項式力学系の研究 (2) オーバーラップを許す有限生成有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元の研究(3)開集合条件を満たす無限生成拡大的有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元の研究 (4)雑音誘起現象の研究、の4つを行った。まず(1)について述べる。以前の研究を発展させ、一般の多項式正則族を考え、その族の元の集合の空間上の確率測度の空間のほとんど全ての元について、それに付随するランダム多項式力学系を考えると、たとえ付随する核ジュリア集合が空でなくても、(a)平均化システムの挙動は非常に穏やかで、リーマン球面上の高々可算個の点をのぞく初期点のディラック測度から出発した軌道は確率測度の周期的サイクルに収束し、かつ(b)リーマン球面上の高々可算個の点をのぞく初期点に対して、ほとんどすべての多項式列に対するリアプノフ指数が負になることを示した。次に(2)について述べる。M. Urbanski氏との共同研究において、「横断性条件」と呼ばれる条件を満たす有限生成拡大的有理半群族を考え、その族のほとんど全てのパラメータについては、付随する有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元は圧力関数の零点と2の小さいほうの値に等しいことを示した。さらに、圧力関数の零点が2より大きいほとんどすべてのパラメータについては、付随する有理半群のジュリア集合の2次元ルベーグ測度が正になることを示した。結果はAdv. Math.に出版された。(3)については、J. Jaerisch氏との共同研究によるもので、開集合条件を満たす無限生成拡大的有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元が圧力関数の値が負になる温度パラメータの下限と等しいことを示し、その結果を非双曲的有限生成有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元の評価に対して応用した。(4)について佐藤譲氏(北大)と共同研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ランダム複素力学系については、以前に付随する核ジュリア集合が空になる場合に様々な結果を得ていたが、本研究において、核ジュリア集合が空とは限らない場合の状況について深く調べることができた。なお、実係数多項式によるランダム力学系においては、 核ジュリア集合が空でない場合がとても多く、上記の研究の意義が大きいといえる。実際、非線形物理学などにおいては、実係数多項式による実直線上のランダム力学系における、「雑音誘起現象」(通常の力学系では起こりえない、ランダム力学系特有の現象)が近年クローズアップされており、そのメカニズムは数学的にはほとんど解明されていないので、解明に向けてのきっかけになる可能性がある。 また、M. Urbanski氏との共同研究において、開集合条件を仮定しない有限生成拡大的有理半群のジュリア集合のハウスドルフ次元を圧力関数の零点で評価することについて、大きな発展があった。これにより、たとえばシルピンスキーガスケットを産み出す反復関数系のパラメータの任意の近傍において、ほとんど全てのパラメータでそれに対応する反復関数系の極限集合のハウスドルフ次元が反復関数系の相似次元と等しいことなどがわかった。それ以外にも、有理半群と反復関数系に対して膨大な応用例があり、今後の大いなる発展が見込まれる。以上のことから、本研究がおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
当初、研究分担者でありかつ共同研究者である佐藤譲氏とオランダのランダム力学系の研究者を訪れる予定にしていたが、その予定が変更になり、小額ではあるが次年度使用予定の研究費が生じた。今後も、ランダム(複素)力学系、有理半群、反復関数系のそれぞれの研究を同時に、交錯させながら行っていく。その際、佐藤氏をはじめとする、ランダム力学系の研究を行っている物理サイドの国内外の研究者と積極的に交流し、ランダム力学系特有の現象のメカニズムの解明に努める。そして、高次元の複素多様体上のランダム複素力学系理論の基礎を開拓することを行う。現在、代数幾何学、低次元トポロジー、パンルベ方程式などにおいて、高次元の複素多様体上の正則写像(または有理写像)の群の力学系を考える必要性と重要性が認識されつつあり、そのような対象に対してランダム複素力学系を用いたアプローチを考えていく。これは大変に新しいアプローチであり、成功すれば様々な分野に関係する、大変に魅力的な研究となるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
8月から一年間、佐藤譲氏はイギリスに滞在する。私もイギリスを9月ないしはそれ以降の時期に訪問し、佐藤譲氏とランダム力学系の雑音誘起現象について共同研究を行うほか、イギリスのランダム力学系や反復関数系の研究者と交流して、研究の知見を深める。 またこのほか、6月の上海での国際研究集会にて研究発表を行い、様々な研究者と交流を深め、最新の情報を得て自らの研究に生かす。そのほか、アメリカのR. Stankewitz氏を日本に招へいし、有理半群のジュリア集合を描くアルゴリズムについての共同研究を行う。さらに、高性能のデスクトップ型パーソナルコンピュータやコンピュータソフトを購入し、有理半群のジュリア集合のグラフィクスやランダム多項式力学系における無限遠点に収束する確率の関数(フラクタル集合上でのみ変化する平面上の連続関数)のグラフのグラフィクスを描くなどして、研究や研究発表に役立てる。さらに、解析学、幾何学、複素多様体論、代数幾何学、力学系理論、確率過程論などの、最新の結果を網羅した書籍を購入し、研究に役立てる。
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