高橋博樹氏(慶應義塾大学)、Juan Rivera-Letelier氏(米国Rochester大学)との共同研究を推進し、多項式写像に代表される有界閉区間上のカオス力学系に対して、大偏差原理が成り立つためのこれまでに知られているものよりもさらに良い判定条件が得られた。すなわち、平坦でない特異点を持つ多峰写像によって与えられる可微分力学系が、位相的完全性を持ち、さらに写像の反復合成による微分係数の絶対値が特異値において無限大に発散すれば、大偏差原理が成り立つ。特に、吸引周期軌道を持たない(従ってカオス的な)ほとんどすべての2次写像力学系に対して大偏差原理が成り立つ。また、大偏差原理が成り立つ時、そのレート関数は力学系の情報量を表すKolmogorov-Sinaiエントロピーと初期値鋭敏性に関する幾何学量であるLyapunov指数の差を用いて具体的に表現できる。この結果は今後、物理測度が存在しないような状況のもとでも力学系の統計的性質を調べ、熱力学形式論を展開できることを示唆する画期的な結果であると考えられる。この研究成果について、東京大学、岡山大学、米国Brown大学など国内外の研究集会やセミナーにおいて発表し、鷲見直哉氏(熊本大学)、三上敏夫氏(津田塾大学)、辻井正人氏(九州大学)、Francois Ledrappier氏(米国Notre Dame大学)、Stephane Nonnenmacher氏(フランスParis-Sud大学)等と議論を行った。
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