研究課題/領域番号 |
24540226
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
花輪 知幸 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (50172953)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 理論天文学 / 数値シミュレーション |
研究概要 |
銀河衝撃波の安定性を議論するための基礎として、平面衝撃波の安定性についての理論的考察と数値シミュレーションコードの開発を行った。これまで最も簡単な場合として考えてきた等温衝撃波の安定性解析で用いた前提条件に誤りがあることをフランスの研究者に指摘された。等温衝撃波にゆらぎを与えると渦が生じるが、これまでの解析ではこれを見落していた。指摘してくれた研究者も、証明を工夫すれば等温平面衝撃波が安定であること証明できそうであるという意見だったので、これまでの証明を見直した。これまで数学的な変換だけに頼って証明をしてきたので、まずこれらの変数がもつ意味を検討した。衝撃波面を歪めずに移動させるゆらぎについては、ガス要素のラグランジュ変位と全エンタルピーの変化という、物理的意味が明らかな変数を用いて中山(1992)が求めた条件を書き直すことができた。残念ながら衝撃波面を歪めた場合や、ガスが断熱的な場合への拡張ができていない。 理論解析と平行して、衝撃波の内部構造を捉える数値シミュレーションコードの開発を行った。銀河内ガスの粘性は低いが、衝撃波面の近傍では速度が急激に変化するため、粘性が効く。従来のシミュレーションでは、衝撃波面を跨ぐ狭い区間を積分することにより求められる弱解を使うことにより、衝撃波内部の構造に触れずに計算を行ってきた。しかし衝撃波が強くなると、数値解では波面がぼやけて採用した格子間隔の数倍にまで広がる。圧力勾配は拡げられた衝撃波面では正しく評価されないので、これが偽のゆらぎを生む可能性が高い。この可能性を避けるため、粘性を陽に取り入れた計算法を考えた。しかし残念ながら、まだ満足のゆく形の粘性を見つけられていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
等温ガスでは圧力が密度だけの関数(バロトロピー)であるため、密度や圧力が滑らかに変化する場合には渦度は生成されない。研究当初の理論解析ではこの性質を利用してきたが、衝撃波面では密度・圧力が不連続に変化するため、この性質が破られる。フランスの研究者にこの不備を指摘され、この問題に集中したが結果を得ることができなかった。解析的な証明は、完成すれば明快であるが、一方で進展するかどうかが不確実である。 理論解析と平行して粘性を陽に考慮した数値シミュレーションを行った。粘性が衝撃波の近傍だけで作用するよう、粘性の形を工夫したつもりだが、良い結果を産むものが得られなかった。全体的に、成果が得られるかどうか不確実なものばかりに取り組んでしまった。論文としてまとめられるような成果は得られなかったが、Nakayma (1992)により定式化された安定性解析で用いられた抽象的な変数に対して、ガス要素のラグランジュ変位と全エンタルピーの変化という意味がつけられた。これらの変数は流体力学の変分原理でよく用いられる変数なので、一般的な安定性解析との対応により、証明に使われた論理の物理的な意味を明らかにできる可能性がある。Nakayama (1992)の証明に使われた積分量はゆらぎによるエネルギー変化を記述している可能性が高い。またこの問題が重力崩壊型超新星爆発の機構として注目しされているSASIと関連が高い。衝撃波を含む流れに対して変分原理を導ければ、現象の理解に役立つ。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は成果が得られる可能性が高い数値解析を行う。腕がきつく巻いているという古典的な近似を用いると銀河衝撃波の1次元モデルが作成できる。このモデルは定常解が求められるので、その安定性解析を数値的に行うことができる。特に衝撃波面が変形せずに移動するゆらぎに対する安定性は、数値的な取り扱いが簡単である。銀河衝撃波面は星が集中してポテンシャルが低くなっている場所の近くに出来る。銀河衝撃波は銀河ガスを圧縮して分子雲を形成し、そこから次世代の星が生まれてくる。衝撃波面が安定な位置にできるかどうかは、銀河内の大局的な星形成の場所や安定性に強く依存する。この問題は1次元で数値的な解析が容易であるが、速度シアやコリオリ力など、平成24年度に理論解析を行った単純な1次元流れには現れなかった効果を取り入れられる。これまでに開発してきた手法を用いれば確実な結果が得られると期待できるので、最初にこの問題を考える。 また本年度前半はサバティカル研修として、フランスの研究所 (CEA)に4ヶ月滞在するので、Thierry Foglizzo 博士と衝撃波の安定性についての議論を行う。昨年の訪問時に同博士は私の研究に興味を持ち、時間がとれれば共同研究をしたいと申し出てくれた。今回は滞在時間が長い(4ヶ月)ので、この機会を積極的に利用する。 流体の数値シミュレーションでは一定の数値粘性をもつ場合について実験を行うとともに、高次精度スキームについて検討する。天体物理学では粘性を陽に仮定しない2次精度スキームがよく用いられているが、航空工学では比較的大きな数値粘性と4次以上の高次精度スキームを組み合わせる方法がよく用いられるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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