研究課題/領域番号 |
24540228
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横井 喜充 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (50272513)
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キーワード | 太陽 / 磁場 / 乱流 / ダイナモ / 輸送 / 乱流磁気拡散 / リコネクション |
研究概要 |
従来のダイナモ理論・モデルでは平均場方程式とゆらぎ場方程式で,平均速度の取り扱いに著しい不均衡がある.平均磁場の方程式中で平均速度の非一様性は「差動回転効果」あるいは「Ω効果」として重要視されている.その一方で,ゆらぎ方程式の中では平均速度の非一様性は完全に無視されている.このため,ゆらぎ速度とゆらぎ磁場の相関で定義される乱流起電力の表式中で,平均渦度(すなわち平均速度の非一様性)とカップルする乱流クロス・ヘリシティの効果は一切無視され,平均磁場とカップルするヘリシティあるいはα効果のみが議論されてきた.クロス・ヘリシティ効果を組み入れたモデルの構築という前年度までの成果を承け,本年度は,クロス・ヘリシティによるダイナモ・モデルを太陽磁場に適用した.平均磁場のトロイダル成分とポロイダル成分という従来のモデル方程式(Parker方程式)に加え,乱流クロス・ヘリシティの発展方程式も組み合わせた太陽磁場のモデル方程式を構成し,そこでの磁場の基本的ふるまいを調べた.モデル方程式の固有値解析の結果,α効果の磁場の作用によって乱流クロス・ヘリシティが振動的ふるまいを示し,クロス・ヘリシティの符号反転に引き続いて太陽磁場の極性反転が起こるという極性反転のメカニズムが示された.この成果は,従来のモデルを大きく書き換えるもので,現在論文にまとめられている. その他の関連研究として,平均場の非一様性による乱流輸送の促進と抑制が爆発的なリコネクションに寄与しうることを初めて示した論文がPhysical Review LettersとPhysics of Plasmasで公刊された.また,時間スケールの変動が乱流粘性を抑制するモデルによって金星のスーパー・ローテーションの維持機構を説明した論文がGeophysical and Astrophysical Fluid Dynamicsから公刊された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
太陽磁場の基本的変動を記述する新しいダイナモ・モデルを構成した.このモデルの固有値解析をDieter Schmitt(ドイツ・Goettingen・Max-Planck太陽系研究所)とValery Pipin(ロシア・Irkutsk・太陽地球物理研究所)の協力を得て,数値的に行った.その結果,クロス・ヘリシティの変動→トロイダル磁場の変動→ポロイダル磁場の変動という因果関係を示すふるまいが明示された.
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今後の研究の推進方策 |
従来の研究と比較して本研究で決定的に重要な役割を果たすのは,クロス・ヘリシティの時間的・空間的振る舞いである.特にクロス・ヘリシティの境界条件についてはまだ研究の余地がある.世界各国の数値的研究グループと協力しつつ,さまざまな幾何条件での直接数値計算データを利用して,乱流クロス・ヘリシティの境界条件についての知見を得ていく.太陽磁場の二重極と四重極のモード間結合は,実際の太陽磁場の不規則変動を記述する鍵となる.二重極や四重極を与えるクロス・ヘリシティの空間分布と境界条件についての理解を進めていく. 研究費の多くは,多研究者・研究グループとの研究交流のために使用する. ダイナモ・モデルを用いた宇宙天体現象の数値解析では,独Max-Planck太陽研究所のJoerg Buechnerグループ,Goettingen大学宇宙物理学教室のWolfram Schmidtのグループとの共同研究を進める.クロス・ヘリシティの境界条件等については,英Glasgaw大学のRadostin Smitevグループ,仏Ecole Normale SuperieureのEmmanuel Dormyのグループと情報を共有する.ダイナモ・モデルの検証では,数値計算については仏Grenoble大学のGuillaume Balaracのグループ,米Princeton大学のJames Stoneらと研究を進める.プラズマ実験による検証は,Wisconsin大学のCary Forrest,伊PdovaのEmilio Martinesと共同でクロス・ヘリシティ関係の諸量の測定に向けて研究を進める.
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