研究課題/領域番号 |
24540236
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡 朋治 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (10291056)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 銀河中心核 |
研究概要 |
平成24年度は、研究計画に従い、主に野辺山45m望遠鏡およびASTE10m望遠鏡を使用したミリ波サブミリ波スペクトル線サーベイの拡充を行い、以下のような成果を得た。 (1) 分子雲複合体中に埋もれた巨大星団の発見(ジャーナル論文出版済):ASTE 10 m望遠鏡を使用した一酸化炭素サブミリ波スペクトル線(CO J=3-2, 346 GHz)による銀河系中心領域のサーベイを完了し、同分子のミリ波スペクトル線(CO J=1-0, 115 GHz)データとの比較から高励起状態にある分子ガスの分布を調査した。その結果、銀経1.3°の領域に莫大な力学的エネルギーを有する高励起ガス塊を発見し、その運動からエネルギーの供給源は多重の超新星爆発であると結論した。このことは即ち、ここに約100万太陽質量の巨大な星団が埋もれている事を意味している。これは銀河系内で最も巨大な星団であり、中質量ブラックホールの母胎となる可能性がある。 (2) 「ぶたのしっぽ」分子雲の発見(ジャーナル論文出版済):野辺山45m電波望遠鏡を使用した、ミリ波帯分子輝線観測により、銀経-0.75°の領域に特異な螺旋形状の分子雲を発見し、その特殊な形態から「ぶたのしっぽ」分子雲と名付けた。同方向には視線速度の異なる二つの巨大分子雲があり、ぶたのしっぽ分子雲の根元で二つの速度を橋渡しする高速度ガス成分が検出された。この事は、二つの巨大分子雲がこの位置で衝突している事を示しており、ぶたのしっぽ分子雲はこれら分子雲衝突に伴って捻られた磁力管に伴う構造であることを示唆するものである。 なお、上記二つの成果は慶應義塾大学および国立天文台の広報室を介してプレスリリースを行い、ともに多くの新聞に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観測データは順調に蓄積されており、解析、議論、論文執筆そして出版プロセスも比較的スムースに進行している。国内外の研究会のおける発表も多数行っており、招待講演や講演会にも招かれるようになった。さらにこの成果を受けて新たな観測提案を行い、順調に次年度の観測時間を獲得している。平行して、情報通信研究機構(NICT)の鹿島-小金井間VLBI高地を使用した銀河系中心核Sgr A*のモニター観測を開始し、今年から来年にかけて増光が予測される銀河系中心核ブラックホールについて、新しい研究展開が見え始めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、即にサブミリ波領域の分子・原子輝線サーベイの拡充を行う。特に、高密度プローブであるHCN(シアン化水素) J=4-3 スペクトル線および C(中性炭素) 3P1-3P1スペクトル線サーベイの拡充を行い、一昨年度に連携研究者田中邦彦が発見した銀河系中心核近傍の「中性炭素原子雲」の理解をさらに深めるとともに、本研究の主題である「高速度コンパクト雲」を軸とした銀河系深淵部の研究を強力に推し進める。 また昨年度終盤より、情報通信研究機構の鹿島-小金井VLBI(超長基線干渉計)を使用した銀河系中心核Sgr A*の電波モニター観測を継続しており、昨年発見されたG2雲の中心核ブラックホールへの落下に伴うフレアアップの検出を目指している。 併せて、センチ波帯VLBI移動局実験の準備を始めている。これは将来のブラックホール撮像観測に向けたサブミリ波VLBI計画への準備であり、手始めに22GHz帯の移動局を立ち上げるべく部品の調達を始めた所である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、おおむね予定通り大部分を旅費として使用する。この旅費は観測、海外の研究者との討論、国際会議への出席、サブミリ波観測適地の探査等に費やされる予定である。また、Sgr A*のVLBIモニター観測を可能な限りの頻度で長期間継続するための国内旅費、および論文出版に伴う諸費用も賄う。さらに、VLBi移動局実験のための各種測定器や機械・電子部品も購入する必要がある。
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