研究課題/領域番号 |
24540236
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡 朋治 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (10291056)
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キーワード | 電波天文学 / 銀河中心核 |
研究概要 |
平成25年度は、研究計画に従って、野辺山宇宙電波観測所45m電波望遠鏡、ASTE 10m望遠鏡、オーストラリアのMopra 22m望遠鏡、ハワイのサブミリ波干渉計SMA、情報通信機構(NICT)鹿島-小金井VLBIシステムを使用して、銀河系中心分子層に点在する複数のターゲットに対してミリ波サブミリ波スペクトル線観測を重点的に推し進めた。その結果、以下のような成果を得た。 (1) 特異電波源Tornadoに付随する分子雲の発見(論文投稿済):野辺山宇宙電波観測所45m電波望遠鏡を使用して、竜巻状の形状を有する特異電波源Tornadoのミリ波分子輝線観測を行い、視線速度が-14 km/sと+5 km/sの二つの分子雲が同天体に付随しており、それらは激しく相互作用している事を見出した。これらの結果から、分子雲衝突と点状天体への質量降着に起因するTornado形成シナリオを提唱した。 (2) いて座C領域にある二つの高速度コンパクト雲の発見(論文出版済):ASTE 10m望遠鏡を使用して、いて座C領域のサブミリ波分子輝線サーベイを行い、極めて速度幅の広い二つの高速度コンパクト雲を検出した。これらは著しく高励起状態を有し、局所的に何らかの加熱機構が働いているものと推測される。形成シナリオとして三つの仮説が検討された。 (3) 超新星残骸W44に付随する分子雲の膨張速度の測定(論文出版済):野辺山宇宙電波観測所45m電波望遠鏡を使用して、銀河系円盤部にある超新星残骸W44に付随する分子雲のミリ波分子輝線による観測を行い、分子ガスの顕著な膨張運動を検出した。この膨張速度14 km/sと分子ガス質量から、超新星が分子雲に与えた運動エネルギーを算出した。 (4) いて座A*の強度モニター観測:情報通信機構(NICT)鹿島-小金井VLBIシステムを使用して、銀河系中心核いて座A*の8 GHz/2 GHzにおける強度モニター観測を進めた。現在のところ、銀河系中心核へ落下中のガス雲G2に起因する顕著な強度変動は見出されていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も、観測データは順調に蓄積されており、順調に成果をあげていると考えている。我々の主ターゲットである「高速度コンパクト雲」に関しては、複数の電波望遠鏡による撮像観測およびラインサーベイ観測が精力的に進められた。それらの運動状態、物理状態と化学組成が解明される事により、徐々にその正体が垣間見えつつある。この成果を受けてALMAに高分解撮像観測の提案を行い、高いスコアで受理された。観測は現在進行中で、次年度には成果が得られる予定である。 論文執筆および出版プロセスも比較的スムースに進行している。国内外の研究会のおける発表も多数行っており、引き続き招待講演や講演会にも招かれている。さらにこの成果を受けて新たな観測提案を行い、順調に次年度の観測時間を獲得している。本研究の成果として発表した論文も、順調に被引用件数を伸ばしており、2013年8月に行った「W44分子雲の膨張運動の解明」に関するプレスリリースも奏功し複数の一般紙に掲載された。 平行して、昨年度より開始した銀河系中心核Sgr A*のVLBIモニター観測も継続している。銀河系中心核ブラックホールは、ガス雲G2の接近により今年度以降の増光が予測されており、新たな研究展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となるため、単一鏡を用いたサブミリ波領域のラインサーベイ観測およびALMAを使用した高分解能撮像観測を遂行するともに、研究の取りまとめに努力する。特にALMAによる撮像は、我々の主ターゲット「高速度コンパクト雲」内部の運動を解明する本質的なデータが期待され、内部のエネルギー源または重力源の正体が解明される可能性が期待される。これらの観測データを総合して、本研究課題の主題である「高速度コンパクト雲とは何なのか?」という問いに対して明確な解答を与え、それらと中質量ブラックホールとの関係を研究論文をまとめる。 また、本研究課題の展開として進めている銀河系中心核周円盤の観測的研究については、昨年度成功裏に修了したミリ波帯ラインサーベイ観測の結果を受けて、スペクトル線の入念な分類を行い、優良な探査スペクトル線を複数抽出した。これらのスペクトル線による撮像観測、およびサブミリ波領域のラインサーベイ観測の提案も行い、受理された。これらの観測研究を推進し、中心核活動性の本質に関する研究を推し進める。 加えて、情報通信機構(NICT)鹿島-小金井VLBIシステムを使用した、銀河系中心核Sgr A*の強度モニター観測も継続し、G2雲の接近と破壊、そして中心核ブラックホールへの質量降着の関連を調査し、銀河中心核活動性の本質に迫る研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
観測に使用している情報通信機構(NICT)鹿島-小金井VLBIシステムの鹿島11mアンテナにおいて、2013年12月に信号ケーブル断線のトラブルが発生し、2014年3月まで観測不能状況に陥った。そのため旅費が計画よりも少額となった。 通信ケーブルの修理は完了し、観測可能な状況となったため、今年度は昨年度よりも繁く観測を行いたい。そのため、引き続き潤沢な旅費を必要とする。
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