研究課題/領域番号 |
24540238
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
尾関 博之 東邦大学, 理学部, 教授 (70260031)
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研究分担者 |
小林 かおり 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (80397166)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アミノ酸 / サブミリ波分光 / グリシン / 星間物質 |
研究概要 |
宇宙における生命、すなわちアミノ酸の合成経路として星間空間におけるストレッカー反応が提示されている。これは宇宙空間に豊富に存在するアンモニアおよびホルムアルデヒドを原料として、それらのシアノ化および加水分解よりアミノ酸が生成するという考え方である。電波望遠鏡によるこれらアミン酸(すなわちグリシンといってもよいであろう)前駆体の探索は反応の最終段階であるアミノアセトニトリルについて、十分な説得力を持つ形でその存在が確認されているわけではない。これは、探索に使用する電波望遠鏡の感度不足によるものか、探索にあたって利用する分光データの精度不足によるものか、あるいはそもそも星間空間におけるこれらの物質を介した星間化学モデルに問題があるのか判断が難しいところである。 2012年より南米アタカマ砂漠にALMAという世界最高性能のミリ波-サブミリ波干渉計が完成し、その観測運用が始まった。この望遠鏡システムは従来の電波望遠鏡と比較して場合によっては数ケタ高い感度での分子の探索を可能とする。星間空間において、はたしてストレッカー反応が生命の基本単位であるアミノ酸生成の主要な経路であるのか、星間化学的な観点から確かめることがALMAを用いれば可能になるであろう。本研究初年度である平成25年度はもっとも単純なアミノ酸であるグリシンを与えるストレッカー反応の中間体、すなわちメタンイミンおよびアミノアセトニトリルに着目し、これらの分子定数を周波数変調型サブミリ波-テラヘルツ帯吸収分光計を用いて精密に決定することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における最低限の目標としていた、アンモニアからグリシンに至る経路であるストレッカー反応(アンモニア==>ホルムアルデヒド==>メタンイミン==>アミノアセトニトリル==>グリシン)の中間体のスペクトルはすべて取得することができた。特にアミノアセトニトリルに関してはアミノ基の重水素置換体、またメタンイミンの炭素(13C)および窒素(15N)置換体のスペクトル取得に成功したことは当初の計画以上の進展である。特にアミノアセトニトリルはこれまでフランスのグループがサブミリ波領域におけるスペクトル測定結果を報告してあったが、本研究によれば、これらの先行研究に帰属間違いが多数あり、我々の測定結果をもとに遠心力ひずみ定数を大幅に改定しなければならないことが分かった。メタンイミンについても双極子能率の関係でこれまでa型遷移を中心に測定されていたが、今回b型遷移についてもテラヘルツ領域まで測定することができた。また炭素および窒素同位体種についてはほとんど報告がなかったが、本研究において正確な繊維周波数を決定することができた。これら一連の成果はThe 67th International Symosium on Molecular Spectrocopy(合衆国オハイオ州コロンバス)、第6回分子科学討論会(東京)で、主要な成果を発表済みであり、今回の我々の結果を用いた星間空間におけるアミノアセトニトリルの探査も一部始まっている。現在アミノアセトニトリルの分光結果に関してはAstrophysical Journalに、メタンイミンの分光実験の結果についてはJournal of Molecular Spectroscopyに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していたアミノ酸合成経路の一つであるストレッカー反応の中間体の分光に関しては、もっとも単純なアミノ酸であるグリシン合成にいたる物質の分光実験は各種同位体を含めてほぼ終了した。星間空間におけるストレッカー反応の重要性は本研究で明らかになった分光学的情報をもとにした星間空間の探索で明らかになってくると思われる。したがって、研究2年目の平成25年度以降は、 (1)グリシンより複雑なアミノ酸であるアラニンについてストレッカー反応を考え、中間体になる物質の分光学的知見を得る。そして (2) ストレッカー反応以外の反応経路による星間空間におけるアミノ酸生成のシミュレーション研究がおこなわれていることから、これらで特に注目している分子で分光学的情報が不足している分子について、サブミリ波・テラヘルツ帯における高分解能分子分光を適用する。 現在最も注目している分子はヒダントインという分子である。これはストレッカー反応におけるアミノアセトニトリルと同様、加水分解により直ちにグリシンを生成する。またヒダントイン分子の側鎖に応じて、加水分解により豊富な種類のアミノ酸が生成することが分かっている。本研究では上記2本立てで分光実験を進め、電波天文観測によるこれらの分子の探索に必要な分光学的情報を得ることを目的とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究初年度と同様周波数変調型サブミリ波・テラヘルツ帯吸収分光計の冷却検出器を動作させるための冷媒(液体ヘリウム)の購入に研究費の主要な部分を充当する予定である。しかし、液体ヘリウムの供給価格は毎年値上がりしており、今年度の供給価格は昨年度比30%増しの通告を受けている。加えて液体ヘリウムを産出する世界各地の設備に、昨年は不具合が相次いだことから11月から2月までの4か月間は液体ヘリウムの供給が完全に停止してしまい、本研究の中心となる分光実験ができなくなってしまった。このようなことを今後繰り返さないためにも、次年度(計画二年目)は、初年度のヘリウム供給停止に伴って未執行分となった予算と次年度分の研究予算を合わせ、液体ヘリウムを用いないタイプの検出器(固体検出器)を購入する予定である。これにより、液体ヘリウムの供給体制が仮に不安定となっても本研究は最低限続けることができるものと思われる。
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