研究課題
基盤研究(C)
本研究課題は、サブミリ波超長基線電波干渉計を用いた高感度なイメージング手法を開発し、それを実データに応用してブラックホール近傍の構造や物理状況を描き出すことを目的としている。今年度は、現在稼働している米国の3局からなるサブミリ波VLBIアレイや、今後期待される新しい観測局を含むアレイでどの程度のイメージングが可能かを探るために、イメージングのシミュレーションを進めた。具体的には、ブラックホール近傍の構造を模した画像を生成し、期待される観測データをノイズも含めて計算し、それをフーリエ変換してイメージングする一連のルーチンを開発した。その際、通常のCLEANアルゴリズムによるイメージング技法に加え、圧縮センシングを用いた画像再構成技法についても検討し、通常の回折限界を超えた超解像イメージングの可能性を検討した。また、シミュレーションに並行して、これまでに得られている既存の観測データの解析も進めた。現在の3局アレイでも可能な画像生成法として、モデルフィットによるイメージ再構成を試し、ブレーザー3C279等でブラックホール近傍のジェットの折れ曲がりを検出した。また、モデルフィットによるイメージ再構成における新手法として、レプリカ交換モンテカルロ法などベイズ推定に基づくモデルフィットの有効性も検討している。これらの解析から、ブレーザーNRAO530でもジェットの根元の折れ曲がり構造を捉えることに成功している。さらに、ブラックホール撮像において最重要天体であるM87において、ブラックホール半径の5.5倍程度のコンパクトなコアの検出に成功し、今後のブラックホールの直接撮像に一歩近づく重要な成果を得た。また、ALMAをサブミリ波VLBI観測可能にするphase-upについても国際チームと共同で検討を進め、高感度化達成のため光多重伝送による高速データ通信についても技術的検討も進めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究はサブミリ波超長基線電波干渉計を用いた高感度なイメージング手法の開発とその応用を目指している。今年度はそのための基礎となるイメージングシュミレーションを進め、超解像イメージングなどこの分野に大きなブレークスルーをもたらす技法確立の可能性が示唆された。さらに、実際のサブミリ波データを用いていくつかの天体についてイメージング解析を進め、天文学的な成果も得ることに成功している。本課題に関連する研究成果は複数の研究会等で発表された他、天文学会での記者発表にも取り上げられ、また、関連する成果が米国サイエンス誌に掲載されてマスメディアでも報道されるなどした。これらの状況から現在までの達成度は「(2)おおむね順調に進展している。」と判断する。
今後は、昨年度までに開発したシミュレーションやイメージングソフトを用い、イメージング技法についてさらに検討を進める。シミュレーションについては、すでに完成したソフトを様々なパラメーター設定(異なる天体、異なるアレイ形状、異なる雑音レベルなど)で走らせ、現在のサブミリ波VLBIでどこまでイメージングが可能か、また、今後どの観測局を入れた観測が最も効果的か、などについて詳細に検討する。一方、実データの解析も継続的に進め、最近得られている新しいデータの解析についても米国などの国際チームと共同ですすめる。
シミュレーションの継続のため研究補助者に対する謝金支出を予定している。また、米国の共同研究者との打ち合わせのため、米国への海外出張を計画している。この他、研究会・学会へ参加するための旅費や、成果発信のためホームページ作成費も支出する。なお、平成24年度は年度末時期の謝金支給額に若干の変更があったため約24千円の繰り越し金が発生したが、次年度の研究費総額1400千円に比べて小さな額であり、その使用計画に大きな変更はない。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
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http://www.miz.nao.ac.jp/submilli/top