研究課題/領域番号 |
24540248
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐藤 勇二 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50312799)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 弦理論 / 重力理論/ゲージ理論双対性 / 可積分性 / グルーオン散乱振幅 / 極小曲面 / 熱力学的ベーテ仮説 |
研究実績の概要 |
近年の弦理論の主要な研究テーマの一つである重力/ゲージ理論双対性により、超対称ゲージ理論の強結合グルーオン散乱振幅は反ドジッター時空中の極小曲面の面積で与えられる。これまで我々は、双対性の背後に現れる可積分模型を用いて特定の運動量配位周りで強結合散乱振幅を解析的に求める方法を定式化してきた。本研究の目的は、我々の成果をさらに発展させ、ゲージ理論の強結合ダイナミクスを解明していくことである。
実施計画に従いこれまでの研究では、粒子の運動量が3, 4次元空間含まれる場合に我々の手法を拡張してきた。27年度はさらに、対応する可積分模型の化学ポテンシャルが大きい極限周りでの強結合散乱振幅の展開法を考案した。また、可積分模型に現れるパラメタと振幅を関係づけるために重要な質量-結合関係を解析的に求める手法を開発した。これは、量子可積分模型の解析手法としても全く新たな重要なものである。具体的には、運動量が2次元空間に含まれる10粒子振幅を記述する可積分模型において質量-結合関係が厳密に決定され、対応する強結合散乱振幅の解析的展開式を導く我々のプログラムが完結した。これらの成果により、新たな運動学的領域での強結合散乱振幅の解析、多重スケールを持つ可積分模型の解析など、新たな研究領域への見通しが開けた。
強結合におけるゲージ理論の解析はハドロンの物理など自然界の理解には大変重要であるが、摂動的な取り扱いができないため大変困難であり、通常は大規模な数値計算を用いて行われる。我々の結果は、強結合ゲージ理論ダイナミクスの理解へ向けた新たな道を開くものであり、海外での招待講演や物理学の分野で最も評価の高い雑誌の一つである Physical Review Letters で発表される等、大きな関心を集めている。また、4次元ゲージ理論、10次元超弦理論、2次元可積分模型の間の非常に興味深い関係も示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きな化学ポテンシャル周りでの強結合散乱振幅の展開法を考案することにより、研究目的にある、より一般的な運動量配位での強結合散乱振幅の展開式に関して新たな知見を得ることが可能となった。また、質量-結合関係を解析的に求める手法を開発することにより、強結合散乱振幅の解析的展開式を導く我々のプログラムが特別な場合に完結し、より一般の場合についても原理的な見通しがたった。この結果は(可積分)量子場の理論における20年来の問題を解決するものでもある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえ、今後本研究を推進していくために次のような方策を考えている: 1. 27 年度に開発した、可積分模型の大きな化学ポテンシャルに相当する運動学的領域での強結合散乱振幅の解析的展開法を適用し、6粒子強結合散乱振幅の具体的な展開式を求める。また、摂動論の結果と比較することにより、研究目的にある全結合領域での散乱振幅の構造に関する知見を得る。 2. 27 年度に開発した質量-結合関係を解析的に求める手法を、粒子の運動量が3次元空間含まれる場合の7粒子振幅に適用し、強結合展開を完結させる。 3. 強結合散乱振幅の構造を理解するため、励起熱力学的ベーテ仮説方程式を用いて強結合散乱振幅の解析性を解析し、可積分模型側のクロスオーバー現象のゲージ理論側での物理的な意味を明らかにする。 4. 演算子積を用いて、強結合側・弱結合側を包括する散乱振幅の大域的な構造を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度は年度末に予定していた京都大学への出張が予定変更により行えなかったため若干の繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、次年度の研究成果発表のための外国・国内旅費に充てる予定である。
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