研究課題/領域番号 |
24540255
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 宏次 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (10313173)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子色力学 / 有限温度密度 / 高エネルギー重イオン衝突 / 非平衡場の理論 / シミュレーション |
研究概要 |
1) 高エネルギー核子-原子核衝突におけるハドロンおよび重たいクォーク生成;高エネルギー反応に参与する原子核波動関数のソフトな成分はQCDの非線形性を反映したカラーグラス凝縮(CGC)の枠組みで記述される。通常のハドロンやクォークニウム生成におけるCGCの反映を定量的に解析し、LHC実験での検証可能性を明かにした。これは、原子核衝突の初期条件の理解に重要な情報を与える。 2) SU(2)非可換ゲージ場のシミュレーションコードの整備と有効性の検討;CGCの与えるゲージ場配位が重イオン衝突の時間発展の初期条件となる。この初期条件では、電場だけでなく磁場にも大きな非摂動的な遮蔽効果が存在することが数値計算から明らかになった。磁場遮蔽の物理的機構の検討を行っている。続く時間発展シミュレーションのためにも、初期条件の理解は不可欠である。 3) 複素ランジュバン方程式による符号問題の取組;有限バリオン密度の格子QCDは符号問題のために従来の統計手法を摘要できない。複素ランジュバン方程式を用いる方法は、符号問題を解決するものとして注目されるが、数学的基礎づけと摘要範囲が曖昧である。この方法の理解に向けて、QCD同様に符号問題を持つカイラルランダム行列模型にランジュバン法を適用して(a)相転移点近傍で正しくないこと(b)その原因の一端を明かにし(c)その解決に向けた方策を提案した。 4) ベクトル相互作用を含むNJL模型のボソンスペクトル関数:有効作用汎関数に基づく研究の準備として、ベクトル斥力型相互作用をもつ模型の、気液的臨界点で密度揺らぎスペクトルがソフト化して臨界揺らぎを含むことを確認した。低エネルギーモードの有効作用の解析には、このような運動を正確かつ統一的に内包することが不可欠である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者の継続研究であり、当該研究に深く関連する「CGCからの重たいクォーク生成」の研究をまとめるために、想定以上の研究時間を割く必要があった。カラーグラス凝縮(CGC)状態は、衝突直後のゲージ場配位を決定するもので、時間発展の初期条件を与える点で重要である。 また、数値計算用のGPUワークステーションの導入について、GPUボード開発元の機種更新時期と重なったため、導入を2013年度に延期した。
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今後の研究の推進方策 |
(A) SU(2)ゲージ場シミュレーションコードの整備;信頼できる非可換ゲージ場シミュレーションを独自に実施し、時間発展の完全な情報を利用しつつ重要な物理機構を探ることが、本研究目的の一つである。そのために、GPUワークステーションの構築と、独自シミュレーションコードの開発整備を、次年度の前半に集中的に行う。その後、今年度に明らかにした初期条件における電場・磁場の強い遮蔽現象と、従来から指摘されるゲージ場不安定性の可能性との関連について研究を発展させる。 (B) 複素ランジュバン方程式を用いた符号問題の検討;形式的な時間を導入した統計手法であるランジュバン法やその拡張を、符号問題を持つスカラー場やゲージ場に適用することを試みる。新しく加える問題意識であるが、「非平衡場のシミュレーション」と捉えると、本研究の資産を有効に活用できるものである。 (C) 有効作用汎関数を用いた臨界点のモードスペクトル並びに非平衡揺らぎの時間発展;当初の計画どおりに進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
非可換ゲージ場の独自シミュレーションを実行して非平衡場のダイナミクスを解明することが、本研究目的の大きな柱である。今年度はGPUボードの機種更新があり、従来型ボード一枚を購入して性能の検討を行うにとどめ、GPUワークステーション本体の導入を次年度に行うことにした。 シミュレーションを効率よく実行するために、GPUを搭載したワークステーションを構築する。 他は、当初の計画どおり。
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