研究課題/領域番号 |
24540256
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
向山 信治 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (40396809)
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キーワード | 宇宙論 / 初期宇宙 / 量子重力 |
研究概要 |
宇宙では、様々なスケールの物理現象が互いに影響を及ぼしながら絶えず起こっている。その中でも、最も壮大なスケールの物理を対象とするのが宇宙論であり、最も基本的な最小スケールの物理が素粒子物理そして量子重力であると言えよう。重要なことは、この両極端の物理は繋がっている、繋がらなければならない、ということである(Cosmic Uroboros)。生まれたばかりの宇宙は超高エネルギーの極限的状態にあるため、ミクロの物理が本質的になるからである。本研究の目的は、量子重力理論に基づいて、宇宙のより深い理解を得ることである。初期宇宙の研究は、量子重力理論を含む、超高エネルギー物理に有益な知見をもたらすと期待される。 具体的には、主に(i)ローレンツ対称性を破る量子重力理論に基づく宇宙論、(ii)非線形massive gravity理論に基づく宇宙論、(iii)観測からの理論への制限、についての研究をおこなった。(i)においては、Horava-Lifshitz理論のU(1)拡張に対して、PPNパラメータを全て計算し、太陽系内観測からの制限を全て満たすことができることを示した。また、前年度に提唱した、リーマン計量の理論が長距離でローレンツ計量の理論に自発的に変化する機構に基づき、繰り込み可能な新しい重力理論を提唱した。(ii)においては、quasi-dilaton理論を拡張することで、安定な加速膨張宇宙解を構成した。 (iii)においては、LIGOのデータを用いて、背景重力波のパリティの破れに制限を与えた。他には、量子トンネリングを伴うインフレーション模型において、ベクトル場に超曲率モードが存在しないことを証明した。また、Galileon模型のベクトル場への拡張がMinkowski時空で存在しないことを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書には、25年度の課題として、①「弦理論的インフレーション宇宙モデルの構築」、②「Horava-Lifshitz理論に基づく宇宙論」、④「余剰次元のダイナミクスとブレーン宇宙における重力」の3つを記載した。②については十分な結果を出せた。また、前年度の報告書に記載した理由により、①を延期して、リーマン計量の理論がIRでローレンツ計量の理論に自発的に変化する機構に基づく重力理論の研究に専念した。その結果、繰り込み可能な新しい重力理論を提唱することができた。④についても同様の理由で延期した。一方、25年度の課題には含まなかった③「非線形massive重力理論に基づく宇宙論」については、前年度に発見した不安定性を受け、quasi-dilaton理論を拡張することで安定な加速膨張解を発見することができた。
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今後の研究の推進方策 |
宇宙の観測の精度は日々向上しており、先日は BICEP2 が、インフレーション起源の重力波によるものと思われる、宇宙背景輻射のBモードを観測したと発表しました。確定するにはPlanckのBモードの解析結果を待つ必要がありますが、もしもこれが正しければ、インフレーションが宇宙 初期に、それもかなりの高エネルギーで起こったことを強く示唆します。したがって、インフレーション中に、量子重力が重要な役割を果たしていた可能性が高まります。インフレーションのモデル構築は元々UV sensitive で、量子重力の効果が現れやすい傾向にあることが知られていますが、さらに顕著になると考えてよいでしょう。また、今回の発見は(もしそれが確定すれば)、重力子が実際に存在し、量子論にしたがって生成されたことの間接的証拠にもなります。したがって、インフレーションの証拠を与えたという以外にも、量子重力を真剣に研究することを強く要請するという意味も持ちます。量子重力理論に基づく宇宙論は、今後ますます重要になるはずです。 私は、これまでの研究を発展させ、超弦理論等の量子重力理論に基づいた、観測と矛盾のない宇 宙シナリオの構築を目指します。模型構築に際しては、特にBモードや(equilateral-type等の)非ガウス性に着目します。宇宙背景輻射等の観測と直接結びつけることにより、最大スケールの観測が、最小スケールの物理を解明する可能性を突き詰めたいと思います。
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次年度の研究費の使用計画 |
招待講演を依頼された際に、先方が旅費をほぼ全額負担する場合と、半額程度負担する場合と、全額こちらで負担する場合がある。今年度は、通常よりも、全額こちらで負担する場合が少なかった。そのため、今年度は、予想よりも旅費の支出が少なかった。次年度以降は、通常通りか、それ以上の支出が予想されるため、残額は次年度に使用することとする。 今年度の残額は、次年度以降の旅費に上乗せして使用する。また、論文執筆に必要なPCなどの物品も、必要に応じて購入する。
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