研究課題/領域番号 |
24540257
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樽家 篤史 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40334239)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 宇宙論 / 宇宙大規模構造 / 銀河パワースペクトル / 摂動論 / 赤方偏移ゆがみ / 宇宙論パラメーター |
研究概要 |
銀河パワースペクトルは、銀河サーベイを用いた宇宙論研究において最も重要な観測量の1つであり、今後の大規模銀河サーベイでパワースペクトルの精密観測が行われることで宇宙膨張の測定や宇宙論的スケールでの重力理論検証が可能になる。本年度の研究では、摂動論にもとづく実用的な銀河パワースペクトルの理論テンプレートの開発を進め、それをもとに、宇宙論的なデータ解析手法を確立した。ガンマ展開と呼ばれる新しい非線形重力進化の摂動計算手法をもとに、(1) 高次の摂動補正まで取り入れた適用範囲の広い理論計算を高速で行うコードを開発、(2) 赤方偏移ゆがみの非線形効果を取り入れた非等方パワースペクトルおよび相関関数の計算手法を開発、(3) その計算結果を理論テンプレートとしてSDSS銀河の非等方パワースペクトルに応用、観測から宇宙膨張とゆらぎの成長率をロバストに推定する宇宙論的解析ツールを作成した。(1)の成果については、N体シミュレーションによる詳細な検証を経て、開発した計算コードをRegPTという名称で公開し、(2)については四重極成分までの非等方パワースペクトルに対し、広い範囲で従来の摂動論の精度を上回る成果を達成することができた。また、(3)については、銀河の模擬カタログを使った検証を行い、開発した理論テンプレートをもとにロバストな宇宙論的解析が出来ることを確認し、SDSS銀河の非等方パワースペクトルから宇宙論的制限を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書で挙げた初年度の3つの課題(摂動論にもとづく理論テンプレートの計算の高速化、赤方偏移ゆがみを取り入れた理論計算、その計算手法を応用した宇宙論的データ解析の開発)をほぼ達成することができた。うち2つの課題の成果については、すでに学術論文としてまとめられ出版されている(A.Taruya et al. 2012,2013, 項目13の雑誌論文参照)。また、課題を進める過程で実用的にも重要なテーマなどが見つかり(具体的には模擬観測データの作成方法)、現在、国内研究協力者の協力を得て本研究課題と並行して進めている他、当初の計画では平成25年度に行う予定であったSDSS銀河を用いた宇宙論的解析も前倒しで進行中で、ある程度の成果が出つつある。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果をもとに、将来稼働予定の日本の観測プロジェクト(SuMIRe)への応用に向け、ロバストなデータ解析手法の構築を目指す。現在、SDSS DR7 (Sloan Digital Sky Surv ey, Data Release 7)の観測データから測定した銀河パワースペクトルを理論テンプレートと比べることで宇宙論的情報を引き出す解析を行っている。その結果の妥当性を評価する上で、銀河の模擬カタログを使った解析が必要であり、初年度も模擬カタログを使った解析を行って来たが、本年度はその研究をさらに押し進め、宇宙論的N体シミュレーションから、観測される銀河の性質を反映した汎用性の高い模擬カタログ作成方法を構築する。その成果にもとづき、SuMIReプロジェクトで観測される銀河の性質を反映する模擬カタログ作成の検討を行うとともに、高速理論計算にもとづく宇宙論的解析を拡張し、一般的な重力理論の検証を可能にする方法論の模索を進め、作成された模擬カタログを用いて方法論拡張の有効性を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
銀河観測データを用いた今後の宇宙論的解析手法の開発およびその応用において、一時的に大容量の解析データを保管する必要性が予想されるため、ディスク記憶装置の購入を次年度に予定している。また、現在、協力研究者(広島大学)の協力を仰いでパワースペクトル解析を行っているが、次年度ではパワースペクトル解析も含めた統合的な宇宙論解析を行う計画である。統合環境の作成にあたり、協力研究者との研究打ち合わせが不可欠と考えられるため、そのために必要な国内出張費用を次年度の研究費として請求している。
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