銀河サーベイと重力レンズ効果を使った宇宙大規模構造の観測は、宇宙論研究の標準手段として、方法論の検討と新しい可能性の追求についての研究が進んでいる。平成26年度は以下の3点についての研究から新たな成果を得た。
1. 申請者らがこれまで開発を進めてきた再和法による宇宙大規模構造の摂動計算法を、重力理論が修正された場合にも拡張、弱非線形領域において、従来の摂動論では困難だった相関関数の理論計算を可能にした。シミュレーションによる検証を経て、開発した手法は修正重力理論においても高い計算精度を誇ることを明らかにした。この計算手法は、前年に構築した赤方偏移ゆがみの理論モデルと組み合わせて銀河観測データと比較することで、従来の検証法を一歩超えた、重力理論の新しい検証手段をもたらす。 2. 宇宙大規模構造による重力レンズ効果の観測は、宇宙論の強力な観測手段であるが、宇宙論的情報を正確に引き出す上で重力非線形性に由来する系統誤差が深刻となっていた。申請者らは、赤方偏移の異なる背景銀河を適切に重みづけした解析から、重力非線形性が発達した低赤方偏移からの宇宙大規模構造の寄与を大幅に低減する画期的な方法論を考案した。シミュレーションを用いた検証を行い、この方法論で、弱非線形領域にしか適用できない摂動計算でも重力レンズの統計量を正確に予測できることを示した。 3. 申請者らが定式化した計算法をもとに、重力レンズ効果を通して宇宙マイクロ波背景放射から宇宙論的重力波を検出する可能性について定量評価を行った。重力レンズ場の再構築法と除去する手法を組み合わせることで、最大のノイズ源だった宇宙大規模構造に由来する重力レンズ効果を大幅に低減することができ、これまで重力レンズ効果では不可能とされていた宇宙論的重力波の検出が、将来の高感度偏光観測を用いると可能になることを初めて明らかにした。
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