研究課題/領域番号 |
24540260
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
今村 洋介 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (80323492)
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キーワード | 超対称性 / 分配関数 / ゲージ理論 / 3次元 / 5次元 |
研究概要 |
本研究課題の大きな目標は、さまざまな時空上での場の理論に対して分配関数等を厳密に計算することによって、その理論の性質や弦理論、M理論との性質を探ることである。この目標に向けた取り組みの中で、今年度は二つの研究結果を得ることができた。 (1)オービフォールド上の超対称理論の分配関数に関する結果:レンズ空間はオービフォールドの一種で、非自明な構造を持つ3次元空間である。この空間上の理論の分配関数はホロノミーと呼ばれる数で区別される寄与をすべて足し挙げることによって得られる。この際、それぞれの寄与の相対的な符号を決める一般的な方法はこれまでに知られていなかった。24年度の私の研究においては場の理論の間の双対性を用いてこの符号を決められる場合があることを示したが、この方法は適用できる理論が限られてしまう。25年度はこの点を克服するため、因子化と呼ばれる分配関数の性質を用いることで相対符号に対する一般公式を与えた。この公式は24年度の結果を再現するだけではなく、一般の3次元超対称理論に適用できるものである。この結果は Phys. Rev. D 89, 085003 に出版されている。 (2)5次元超対称理論の分配関数に関する結果:最近の進展によって、さまざまな曲がった空間上で超対称性を持つ理論が構成され、その分配関数が計算されているが、分配関数が背景時空のどのような性質に依存するのかを明らかにすることは弦理論やM理論との双対性を調べる上で大変重要である。私は5次元のある超重力理論を用いて、超対称性をその上に定義できる広いクラスの5次元空間の解を与えた。さらに、分配関数はその空間の局所的性質によらないことを示した。これは分配関数が背景時空の大域的性質のみで決まることを示す強い結果である。この結果は現在雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、3次元のオービフォールド上の分配関数についての研究に関しては、分配関数の因子化の性質を用いた符号因子の導出ができたという点において昨年度の計画を達成できたと考えている。また、5次元の理論の分配関数に対していくつかの極限を考えるという計画については、まだ具体的極限を調査する段階にはいたっていないが、特定の極限のみならず、超対称性を持つ広いクラスの背景時空を構成できたこと、そしてその背景時空の変形と分配関数の関係をほぼ明らかにできたことは非常に大きな結果であり、今後個別の解を調べていくにあたり見通しが良くなった。これは大きな進展であると考えているが、これらの結果を応用してM理論、特にM5ブレーンの性質に関する研究の遂行は今後の課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は25年度に得られた超対称性を持つ5次元空間を中心として以下のような点を調べたい。 (1)分配関数と空間の大域的構造の関係:24年度に行った5次元球面上の分配関数の解析では、変形パラメータのうちの一部だけが分配関数に影響を与えることを示したが、これを一般の5次元空間へ拡張したい。特に、影響を与えるパラメータの数と空間の位相不変量の関係を明らかにしたい。 (2)M5ブレーンと5次元ゲージ理論の関係:M5ブレーン上には6次元の理論が存在するが、その性質は謎に包まれている。現在それを調べる手がかりとなっているのは5次元のゲージ理論との関係である。私はM5ブレーンをさまざまな空間に巻きつけたときに現れる複数の5次元のゲージ理論の性質、特にそれらの分配関数を互いに比較することで、M5ブレーンと5次元ゲージ理論の詳細な関係を調べていきたい。 (3)4次元の超対称理論と5次元の超対称理論の関係:25年度に得られた超対称性を持つ5次元の空間の解はどれもある方向への並進不変性を持っている。つまり、ある一方向の座標には解が依存していない。したがって、この方向を単純に無視することで4次元の超対称性を持つ時空が構成できるはずである。4次元における超対称性を持つ時空の解析はすでにいくつかの超重力理論を用いて行われているが、5次元の解と関係するのはこれらとは別の超重力理論に関係するものである。従ってこれまでに知られていなかった4次元空間上の超対称理論を得られる可能性があるため、この解析は重要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進展の度合いを見ながら小規模研究会を開催しようと考えていたが、類似分野の他の研究会との日程の調整がうまくいかず、今年度の研究会開催を見送ったこと、そして数値計算を行うための高性能コンピュータを購入する予定であったが、今年度の研究では解析的な計算が主であったため、現在所有するものの性能で十分であり、新たな購入を行わなかったため。 これまでできなかった小規模研究会を複数回開催したい。
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