研究実績の概要 |
(1) 26年度に、スピン・アイソスピン相関が存在する核物質中では、スピン・アイソスピンが異なるD・D*中間子間に混合が起こることを示しました。26年度末に投稿した論文が査読付き学術雑誌に掲載されました。[D.Suenaga et al., PRC89, 068201] (2) スキルムクリスタル模型は、中間子を含む模型に存在するソリトン解として記述された核子をを格子状に配列することによって核物質を記述するものです。これまでの研究で、ホログラフィック模型に基づくスキルムクリスタル模型を用いて、高密度核物質では、局所的にはゼロではないクォーク凝縮の空間平均がゼロになるハーフスキルミオン相が存在する事を示しました。本研究では、さらに高密度状態におけるカイラル対称性の回復の可能性を指摘しました。[Y.-L. Ma et al. PRD90, 34015] (3) 擬スカラー・ベクトル型D中間子と、スカラー・軸性ベクトル型D中間子をカイラルパートナーとみなし、高密度核物質中での質量を解析し、真空中では分離していた質量が、ハーフスキルミオン相では縮退することを示しました。[D.Suenaga et al., PRD91, 036001] (4) スカラー中間子を含むホログラフィックQCD模型から、軽い中間子のみを含む低エネルギー有効模型を構築する手法を提案しました。[M.Harada et al. PRD89, 115012] (5) 中間子のみを含むホログラフィックQCD模型に、核子の効果を取り入れ、アイソスピン化学ポテンシャルを導入した場合のパイ中間子凝縮相の解析を行いました。そして、パイ中間子凝縮相への相転移が、核子がない場合に比べて大きなアイソスピン化学ポテンシャルで起こることを示しました。[H.Nishihara and M.Harada, PRD90, 115027]
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究目的前半では、ホログラフィックQCD (hQCD) 模型を密度効果を含むように拡張して高密度状態を解析する計画でした。本研究では、研究開始時に提案[PRD86, 021901(R) (2012)]したhQCD模型に密度効果を含める新しい手法を用いて、核子の有効質量の密度依存性を解析しました[PRD88, 095007 (2013)]。また、π中間子凝縮相の解析を行いました[PRD89, 076001 (2014); PRD90, 115027 (2015)]。 研究目的後半では、hQCD模型からソリトン解として核子を記述し、その核子を格子状に配列して核物質を記述するスキルムクリスタル模型を用いて、ハーフスキルミオン(HS)相の解析を行うことを計画していました。本研究ではまず、hQCD模型の低エネルギー有効模型で、真空での核子の性質がよく再現されることを確認しました[PRD 86, 074025 (2012); PRD87, 034023 (2013)]。そして、高密度領域でのHSの存在を確認し、通常相では密度とともに減少する核子質量がHS相では一定となることを示しました。[PRD88, 014016 (2013); PRD90, 034015 (2014)]。この解析と平衡して、hQCD模型からスカラー中間子を含む低エネルギー有効模型を構築する手法を提案しました。[M.Harada et al. PRD89, 115012]。さらに、チャームクォークを含むハドロンをプローブとして、HS相の対称性等を含む高密度核物質の情報を得る手法を考案しました。 [D.Suenaga et al., PRC89, 068201 (2014); PRD91, 036001 (2015)] 上記のように、交付申請書に記載した研究目的はほぼ達成されたと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
達成度に記載したように、当初の研究目的はほぼ達成されています。2015年度は、これまでの継続として下記の具体的研究を実施すると共に、最終年度であるため、これまでの研究のまとめを実施します。 (1)ハーフスキルミオン相におけるクォーク凝縮の異方性の解析:ハーフスキルミオン相では、クォーク凝縮が局所的にはゼロではないが、その空間平均はゼロになっています。実際には、空間的な周期性を持って増減を繰り返すことが分かってきました。2014年度に、他の有効模型で得られているカイラル密度波(カイラルスパイラル)といった構造との類似点・相違点をまとめる研究に着手しました。2015年度はこのまとめを行う予定です。 (2)チャームクォークを含むハドロンをプローブとする核物質の探究:2014年度の研究[PRC89, 068201 (2014); PRD91, 036001 (2015)]では、核物質に対してD中間子、D*中間子が静止している場合の解析を行いましたが、2015年度は、D・D* 中間子が運動している場合の解析を実施し、D中間子達の分散関係の変化を解析します。
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