研究課題/領域番号 |
24540268
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
高橋 真聡 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242895)
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キーワード | ブラックホール / 一般相対論 / 磁気流体力学 / 衝撃波 / 高エネルギー天体現象 / サブミリVLBI観測 |
研究概要 |
(1)ブラックホール探査に向けての共同研究: 我々の銀河系中心に実在すると期待されている「巨大ブラックホール」を観測的に検証する。この目的のため、電波サブミリ波帯でのVLBI観測による、銀河系中心SgrA*領域の撮像を計画している。この撮像観測によりブラックホール周辺に分布する降着円盤を確認し、さらにその中央部付近の暗い影状領域(=ブラックホール影)を確認する。これまでに、ブラックホール周辺プラズマの物理的な性質や、撮像における時空の歪みの効果(重力赤方偏移、ドップラー効果、光行差など)について調べている。 (2)ブラックホール磁気圏の磁場形状: ブラックホール近傍の磁場配位は、宇宙ジェットの起源や超高エネルギー放射や宇宙線の発生機構と深く関わっている。この問題を一般相対論的磁気流体力学の枠組みの中で解決することを目標に、磁場形状を記述する方程式(trans-field equation)を整備してきた。一方で、ブラックホール周りの真空磁気圏解を適用し、磁場が存在するブラックホール環境での「磁気的なペンローズ過程(=ブラックホールからのエネルギー引き抜き機構)」についての議論を進めている。 (3)磁気流体降着流における温度分布: 降着流からの高エネルギー放射を探るべく、降着磁気プラズマ流に発生する衝撃波により、プラズマがどの様に高温化するか調べている。この定常解は多くの物理パラメータを含むため、その性質について絞りきれてはいないが、定常解が破綻する状況の中に極めて高温なプラズマが発生しうる状況があることがわかってきた。ただし、これは定常解としては破綻する状況になっているため、今後は非定常解としての取り扱い(数値シミュレーション)が不可欠になりそうである。高温に至った後のプラズマからの輻射スペクトルの推定については、海外の研究グループとの共同研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標の達成に向けての準備作業については、順調に遂行できている。研究実行の道筋の確認、および共同研究者との研究打ち合わせについては以下の通り。 (1)ブラックホール探査に向けての共同研究:研究をプロジェクト化し、ブラックホール撮像観測に必要な観測体制(人材、予算、装置開発)の構築を進めている。勉強会や研究会を通じてのブラックホール研究のためのコミュニティ作りが達成できている。理論研究としては、撮像シミュレーションのための基礎データが作成できるようになった。今後はこのデータを元に、VIBI観測した場合の撮像イメージのシミュレーションを実行する。ただし、観測的側面からの取り組みについては(本研究とは独立ではあるが)、人材確保や予算獲得の点で難儀している。本研究をブラックホール撮像観測に適用させるためには、この方面への働きかけも重要であり、理論サイドとしても課題となっている。 (2)ブラックホール磁気圏における「磁気的ペンローズ過程」について、第一段階的な理解が得られている。今年度の知見をベースに、ブラックホール近傍からの高エネルギー粒子の放出について検討する段階にきている。 (3)磁気流体降着流についての温度分布、衝撃波発生に際しての温度上昇については、その計算の道筋について整理できている。定量的な議論のためのパラメーターサーチ等はまだ完了していないが、米国の共同研究者との間でスペクトル計算の段取りを調整している段階に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ブラックホール探査に向けての共同研究: 定期的(1~2ヶ月に一回)に勉強会および研究打ち合わせ会を実施している。今年度においても、綿密な情報提供・意見交換を行うために勉強会(「ブラックホール地平面勉強会」)および研究会(「ブラックホール磁気圏研究会」等)を企画する。議論の内容およびプレゼンファイル等はホームページにて公開する。メンバー全体に関わりそうな議論のテーマについてはメーリングリストも活用する。“ブラックホール周辺の降着円盤が観測的にはどのように盤撮されるか?”の研究テーマについては、まずは降着円盤像モデルにみられる一般相対論効果を整理する。次に「降着円盤+ブラックホール影」撮像元モデルに対して、実際の地上の電波望遠鏡でどのように撮像されるか撮像シミュレーションする。将来的な撮像観測の結果のテンプレートとして整備しておく。また、観測担当のメンバーとの連携を綿密にし、観測実現に向けての予算確保や人材養成に貢献する。 (2)ブラックホール磁気圏での磁場形状: 名古屋大学や京都大学の研究グループとの共同研究を実施している。数値的解法を含めた磁気圏構造の研究を深めてきたが、今後も継続していく。また、「ブラックホールからの磁気的機構による回転エネルギーの抽出(=磁気的ペンルーズ過程)」についての研究を進める。さらに、米国モンタナ州立大学の研究グループと連携して、磁気的機構による宇宙ジェットやガンマ線バーストジェットの起源について探る。 (3)磁気流体降着流における温度分布: 米国マジソン大学の共同研究者との研究を推進させる。磁気圏降着流の温度分布モデルについては私が提供する。それにより、米国メンバーが輻射スペクトルの数値計算を実行する(XSPECコードを用いる)。今年度は計算の初期段階であるが、今後は実際の活動銀河核の観測データと比較し、ブラックホール環境の理解について詰めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度に予定していた海外国際会議出席のための出張を、本学の学内事情等によりスケジュールが合わず取りやめたことにより、残額が生じた。 旅費:国立天文台、宇宙科学研究所等の共同研究者との研究打ち合わせのため、1~2ヶ月に一度の頻度で国内出張する。また、モンタナ州立大学(米国)の共同研究者との研究打ち合わせのため海外出張する。現在、具体的研究作業に移行しつつあるので、予算的に可能であれば、年度の中程と年度末の2回に分けての出張も検討している。この他、銀河系中心ブラックホール、活動銀河中心ブラックホール関連の国際会議に出張する予定である。 消耗品:カラープリンター用トナーやコピー用紙等の購入、パソコン周辺機器(データ・バックアップ用のハードディスク、メモリーなど)の購入、ブラックホール・天体プラズマ関連図書の購入、など。
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