研究課題/領域番号 |
24540271
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
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研究分担者 |
國廣 悌二 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20153314)
森田 健司 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (50339719)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 理論核物理 / QCD相図 / 汎関数繰り込み群 / 強結合格子QCD / QCD臨界点 / 揺らぎ / 補助場モンテカルロ / 高密度物質状態方程式 |
研究概要 |
本研究では秩序変数の揺らぎを考慮した枠組みを用いて、高密度QCD相図の性質を明らかにすることを目的としている。H24年度はQCD有効模型と強結合QCDにおいて揺らぎの効果を含む理論開発を行った。 まずQCD有効模型(Quark Meson 模型)を汎関数繰り込み群(FRG)発展させることにより、臨界点近傍でのカイラル凝縮とクォーク密度の結合の効果を調べた。有効作用をカイラル凝縮(σ)とphononの場(φ)の2つの秩序変数の汎関数としてフロー方程式を解いて場の揺らぎの効果を取り入れた結果、カイラル凝縮とクォーク密度が結合したソフトモードが現れ、感受率が大きな値をとる領域(臨界領域)が増大することが分かった。臨界領域の大きさは実験で臨界点探索を行う上で重要な情報である。この成果は現在印刷中の論文[K. Kamikado, T. Kunihiro, K. Morita, A. Ohnishi, Prog. Theor. Exp. Phys., in press; arXiv:1210.8347] にて発表した。 次に揺らぎを取り入れた強結合格子QCDの枠組みを開発した。格子QCDは符号問題のため有限密度の記述が困難であるが、強結合領域ではグルーオン自由度を先に積分することにより符号問題を抑制できる。グルーオン積分から現れる相互作用項を補助場を導入してボソン化し、モンテカルロ法により補助場を積分した結果、強結合極限・小さな格子では重率の打ち消しが十分小さいこと、また得られた相境界が別の手法(Monomer-Dimer-Polymer(MDP)シミュレーション)の結果とほぼ一致することを示した[A. Ohnishi, T. Ichihara, T. Z. Nakano, PoS (LATTICE 2012), 088(1-7)]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
業績の概要で記述した内容は、ほぼ交付申請書で述べた計画に沿っており、概ね順調に進展しているといえる。 これらの業績のうち、ベクトル結合を取り入れたQCD有効模型のFRG発展は本研究で初めて解かれたものである。2つの秩序変数に対するFRG方程式を解く手法は共同研究者の上門和彦氏(H24年度は京大理大学院生(D3))等が開発したものであるが、クォーク数密度を表す場との結合は取り入れられていなかった。臨界点探索は現在活発に実験研究が行われており、臨界領域が従来考えられてきたものよりも大きい可能性があることを示したことは、学問的価値が高いと判断する。この研究は上門氏の博士論文の一部となっている。 強結合格子QCDにおける揺らぎの効果については、他の手法(MDPシミュレーション)が既に開発されているが、これは強結合極限のみで有効な方法であり、有限結合効果を取り込むことは困難である。ここで開発した補助場モンテカルロの方法は、他分野の量子多体問題で利用されている汎用性の高い方法であるとともに、有限結合効果を取り入れることが可能である。現時点では有限密度領域で直接ゲージ配位を生成する手法が非常に限られているため、こうした手法開発の価値は高いと判断する。この研究は市原輝一君(京大理・大学院生)の修士論文の主要部分となっている。 なお、前述の2つの業績の他にも、H25年度に行う計画であったバリオン数分布についての研究等も一部進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25、26年度は理論開発を引き続き進めるとともに、開発した枠組みを高エネルギー重イオン衝突・高密度領域の相転移に適用する予定である。 QCD相転移は低密度(化学ポテンシャルμ~0)において不連続性の無いクロスオーバー転移であることが示されており、高密度側での一次相転移境界、あるいはこれらをつなぐ臨界点の存在が大きな興味を引いている。このため、臨界点を特徴づける秩序変数の大きな揺らぎと高エネルギー重イオン衝突実験の観測量の関係を示すことは重要であり、保存チャージの感受率(2次のモーメント)や高次のモーメントがシグナルとして提案されている。ところがこれらの物理量は主として平均場近似に基づく理論により分析が行われており、揺らぎのダイナミクスを含む理論での分析を進めることが必要である。本研究では汎関数繰り込み群発展させたQCD有効模型と揺らぎを取り入れた強結合格子QCDによる分析を予定している。前者については論文を投稿しており[K. Morita, B. Friman, K. Redlich, V. Skokov, arXiv:1301.2873]、H25年度には強結合格子QCDによる感受率についての分析を進める予定である。 H26年度には、中性子星コアに代表されるアイソスピン非対称高密度物質の相転移についても研究を進めたい。理論開発としては、揺らぎを含む強結合格子QCDにおける有限結合効果の評価を行うことが重要課題である。また、非対称高密度物質を記述するため、3変数FRGを開発することも目標である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、共同研究者の上門氏が理研に研究場所を移したため、研究打ち合わせのための国内の出張旅費が余分に必要となる。H24年度の繰越額は、この研究打ち合わせ等のために年度前半に使用する予定である。 また、H25年度には格子場の理論国際会議がドイツで行われる他、いくつかの国際会議に分担研究者・共同研究者が参加予定である。秋には京都大学基礎物理学研究所にて滞在型研究会が行われるため、1-2名の研究者の招聘にも科研費を使用する。
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