研究課題/領域番号 |
24540271
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
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研究分担者 |
國廣 悌二 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20153314)
森田 健司 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (50339719)
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キーワード | QCD相図 / 強結合格子QCD / カイラル有効理論 / 揺らぎ / 補助場モンテカルロ / 非対称物質 / 中性子星 / バリオン数分布 |
研究概要 |
H25年度は(A)強結合格子QCD相図、(B)QCD相図の非対称度依存性、(C)重イオン衝突観測量への揺らぎの効果について研究を進めた。 (A) 強結合領域において結合定数の逆数で有効作用を展開する強結合格子QCDは有限密度領域を研究する有力な手法である。我々はH24年度に平均場近似を越えて揺らぎの効果を取り入れた強結合格子QCDの枠組み(補助場モンテカルロ法; AFMC)を開発した。H25年度はAFMCによるQCD相図の分析を進めた [T. Ichihara et al., PoS (LATTICE 2013), 143(1-7); T. Ichihara et al., arXiv:1401.4647, submitted]。符号問題は存在するものの、得られた結果が別の独立な手法と一致していることから強結合極限での相境界は確定したものと考えられる。 (B) QCD相転移が期待されるコンパクト天体現象ではuクォークとdクォークの数が一致しておらず、相図研究においても非対称度(アイソスピン化学ポテンシャル)依存性が重要である。我々はQCD有効模型の一つである Polyakov loop extended Quark Meson (PQM) 模型を用いてQCD相図の非対称度依存性を調べ、大きなアイソスピン化学ポテンシャルでは臨界点が消えることを示した [H. Ueda et al., Phys. Rev. D88 (2013), 074006]。 (C) 「臨界温度付近での相転移の性質が重イオン衝突観測量に如何に現れるか?」という問題は、理論と実験をつなぐ上で重要である。森田(H24分担者)等は相互作用の無い場合(Skellam 分布)、平均場理論、揺らぎを含む理論(汎関数繰り込み群; FRG)におけるクォーク数分布、およびバリオン数分布を比較し、揺らぎがある場合には臨界温度近辺で分布が狭くなることを指摘した [K. Morita et al., Phys. Rev. C88 (2013), 034903; K. Morita et al., Eur. Phys. J. C74(2014)2706]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は強結合格子QCD、およびQCD有効模型とその汎関数繰り込み群発展の2つの手法により、QCD相図に対する平均場(古典場)とその揺らぎの効果を明らかにすることを目的としている。業績の概要で示した内容は申請時の計画にほぼ沿っている。 (A) 強結合格子QCDによる相図研究は、強結合極限ではあるが格子QCDに基づいて平均場近似を越えて相図を求めた重要な成果である。MDPシミュレーション、および複素ランジュバン方程式を用いた相図研究と競合しているが、それぞれの手法に得手・不得手とする部分があり、今後10年程度は複数の手法による結果を比較していくことが必要であろう。今後、有限結合効果を取り入れることにより、真の有限密度QCDの理解に向けて研究を進めていく予定である。 (B) QCD有効模型と汎関数繰り込み群(FRG)に基づく研究では、(B1)フォノンとの結合(あるいはベクトル結合)を含む有効模型のFRG発展、(B2)非対称QCD物質相図、(C) 臨界温度・臨界点まわりでの観測量の分析の3点を目標としており、H24に(B1)、H25に(B2)の課題を進めてきた。非対称物質相図の研究は我々の先行研究[A.Ohnishi et al., Phys. Lett. B704(2011)284]を含めて先駆的な仕事であると考える。現在、非対称QCD物質におけるソフトモードについて研究を進めており、(B2)を拡張した形での成果が期待される。 (C) 重イオン衝突観測量への揺らぎの効果は、H24年度に分担者であった森田健司氏が中心となって研究を進め、H25年度に論文が出版されたものである。最近報告されたRHICでのバリオン数分布にO(4)的揺らぎが現れていることを指摘した重要な成果である。 以上のように、ほぼ申請時の予定どおりに研究が進み、かつ重要な成果が得られている。おおむね順調と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は揺らぎを含む強結合格子QCDでの有限結合効果、非対称物質の相転移点近傍での揺らぎの2点を中心に研究を進める。 現在、揺らぎ効果を含む強結合格子QCDの枠組みにおいて、有限結合効果を取り入れる手法を開発中である。平均場理論で用いられた枠組みを拡張することにより、補助場モンテカルロ(AFMC)において有限結合効果を取り入れることはstraightfowardである。しかしながら補助場の導入方法に不定性があり、現在用いている方法では符号問題が深刻化することが分かってきた。一方でAFMCは他の分野でも広く利用されており、符号問題を抑制する方法が複数提案されている。例えば積分経路を複素化することにより位相をほぼfactorizeできると期待される。このようなアイデアを取り入れることにより、有限結合と揺らぎの効果をともに取り入れたQCD相図を得ることが少なくとも小さな格子では可能と考える。 非対称物質では、カイラル凝縮・バリオン密度に加えてアイソスピン密度が新たな秩序変数として加わり、これらの結合によりソフトモードの性質の変化や揺らぎが大きくなる臨界領域の変化が期待される。現在、これらの3つの秩序変数を取り入れて相転移点近傍での揺らぎについて研究を進めており、H26年度中に論文を投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度から平成26年度にかけて本研究に関わる複数の国際会議が行われたが、これらのうち本研究の成果発表の場として適した会議として、平成26年4月2-4日にBrookhaven National Laboratory(USA)にて行われる国際会議(Approach to Equilibrium in Strongly Interacting Matter)を選択した。当初、分担者の国広が参加予定であり、年度初めであることから他の財源が確定していないこともあり、基金化されている本科研費にて出張することとした。 前述のようにH25年4月に行われた国際会議への出張旅費として使用する。当初は国広が発表する予定であったが、体調不良のため、代理で大西が出席・発表を行うこととなった。
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