研究課題/領域番号 |
24540273
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 透 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10135650)
|
キーワード | ニュートリノ / 超新星 / 中間子生成 / 核子共鳴 |
研究概要 |
本研究の目的は(1)超新星の爆発過程において少数核子系におけるニュートリノ反応による加熱、冷却過程の提唱とその役割を調べること。(2)GeV領域におけるニュートリノ原子核反応において原子核模型依存性を最小限に止めるニュートリノフラックス抽出方法を提案することにある。 (1)に関しては、最近超新星爆発のシミュレーションにより我々が求めた重陽子におけるニュートリノ吸収過程を取り入れた解析が行われ、重陽子の存在により衝撃波が大きく成長することが示唆された。これにより少数核子系のニュートリノ反応の重要性がますます広く認識されるようになってきた。本研究では、2核子系のニュートリノ反応の定式化を行い、ニュートリノ生成過程の解析を行った。超新星爆発シミュレーションの研究者から超新星爆発時の温度、密度、核種の組成の情報の提供を受け、重陽子によるニュートリノ発生率を解析した。その結果重陽子によるニュートリノ生成率は主要過程である核子と同程度の大きさになることが明らかにされた。 (2)に関して、原子炉ニュートリノの実験によるニュートリノ振動角Θ13が有限の大きさを持つという実験結果が報告され大きな話題となった。これにより、ニュートリノ物理の次の大きな目標であるCPの破れが存在する可能性が開けた。このためには、ニュートリノフラックスを現在よりもさらに精度よく抽出することが重要となってくる。本研究では、最大エントロピーの方法を用い、T2K実験におけるニュートリノフラックスで平均化された包括的ミュー粒子生成断面積から、ニュートリノフラックスが得られることを示すことができた。これは準弾性散乱過程に強く依存していた従来の方法とは異なり、新たなユニークな方法を提案する研究となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請当初の研究目的は’(1)超新星の爆発過程において少数核子系におけるニュートリノ反応による新たな加熱、冷却機構を提案し、その重要性を解明する。(2)GEVエネルギー領域のニュートリノ原子核反応において、原子核模型依存性を最小限にとどめるニュートリノフラックス抽出方法を開発する。また反応理論の精密化、ニュートリノによる中間子生成過程の解析も行いニュートリノ混合パラメタの解析に寄与する。’ことであった。この当初目的の大部分は、現在ほぼ達成できていると考えている。 これまで代表者らが開発してきた準弾性散乱過程、デルタ共鳴領域におけるパイ中間子発生をともなうニュートリノ反応模型を用いることで、最大エントロピー法による逆問題の解法がニュートリノフラックスの解析においては機能することが示され、計画の有用性が示された。この成果により研究の大きな不確定要因は取り除かれ、最終年度は抽出されたニュートリノフラックスの誤差、反応過程依存性など詰めの研究を行うことになる。 また重陽子におけるニュートリノ反応の解析においても、主要部分の解析は終了することが出来、解析結果を集約する段階にある。現在、超新星爆発の研究者に成果を提供するため、シミュレーションに容易に取りこめる形の非縮退近似によるニュートリノ生成率公式を導いている。 これらの成果は学会発表を行い、国際会議における発表を予定している。また成果の一部はすでに雑誌に投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、計画どおりに研究を進める。特に研究の詰めを行い研究計画を完成する予定である。 (1)超新星の爆発過程と少数核子系ニュートリノ反応:非縮退近似によるニュートリノ生成率公式を導く。これにより超新星爆発の環境における2核子系のニュートリノ反応の寄与を評価することが容易になると期待される。また最近、軽元素ニュートリノ反応の重要性が取り上げられるにつれ、理論精度をあげていくことが求められている。具体的には、現在広く用いられている軽元素の存在比、自由な粒子の反応率をもちいたニュートリノ生成、吸収率を使うことの検証があげられる。これらの新たな課題に取り組むために、有限温度におけるグリーン関数の方法を用いて軽元素ニュートリノ反応の解析の再検討を始める。 (2)GeV領域におけるニュートリノ原子核反応:最大エントロピー法で抽出されたニュートリノフラックスの理論精度を検討する。また精度よくフラックスを抽出するための物理量(散乱角、パイ中間子非生成断面積)の解析をおこなう。一方長基線ニュートリノ実験におけるニュートリノ振動研究では準弾性散乱、核子共鳴などのエネルギー領域が主要となるが、大気ニュートリノや比較的高エネルギーニュートリノを用いた実験では深非弾性散乱のエネルギー領域が用いられる。本研究計画で開発したニュートリノフラックス抽出方法を深非弾性散乱領域に適用することで、この解析手法を広いエネルギー領域に適用する可能性を調べる。
|