本研究の究極の目的は、中間子ー原子核系の研究から原子核中での中間子の性質を決定し、そこから、核媒質中における量子色力学の対称性の様相に関する知見を得ようというものである。量子色力学は強い相互作用の基礎理論であり、深く理解することは大変重要である。中間子原子や中間子原子核に着目して同様の研究を実施しているグループは少なく、特色有る研究である。 当該年度では、eta(958) -原子核系の生成断面積に関して系統的な研究をし、その大きさやスペクトラムの特徴を詳細に検討した。シグナル過程の断面積のみならず、バックグラウンド過程に関しても相対論的ハドロン輸送模型(JAM)を用いたシミュレーションを行い定量的に評価した。これらの結果を基にeta(958)中間子原子核の観測可能性に関して実験研究者とも議論を重ねつつある。 パイ中間子原子に関しては、パイ中間子の核内における性質を現在よりも精密に決定する為の手段の一環として、中性子奇数核標的に対するパイ中間子束縛系生成反応を理論的に定式化し、基底状態が 1/2+ の量子数を持つ117Sn 原子核に関して実際に断面積を評価した。この反応で生成されたパイ中間子原子は残留相互作用の影響を受けない為に、より不定性の少ない解析が可能になると期待されている。また、有効核子数法よりも優れた点のある、Green関数法を用いた生成断面積の評価も進めた。更に、核内パイ中間子の精密研究を困難にしている、この系の持つ特徴や現状での問題点を総括し今後の研究に向けての課題を整理した。
|