研究実績の概要 |
QCDのフレーバー数(クォークの種類)が仮想的にコンフォーマルウィンドウと呼ばれる範囲(SU(3)QCDの場合、概ね10~16と予想されている)にあると、量子論的にスケール不変な理論が実現すると考えられる。ウィンドウの境界近傍では近似的にスケール不変な挙動を示し、そのためウォーキングテクニカラー模型と呼ばれる複合Higgs模型と関連して注目される一方、近年は格子ゲージ理論の計算機シミュレーションが精力的に試みられており大いに関心を集めている。これに対し、本研究では、コンフォーマルウィンドウ近傍でのダイナミクスについて非摂動的繰り込み群を用いた解析を進める。スケール不変性の破れはカイラル対称性の自発的破れに起因すると考えられるが、破れが小さい場合には、繰り込み群を用いた方法が特に有効であると考えられるためである。 本研究において、非摂動繰り込み群を定式化しそれを用いて非摂動ゲージベータ関数を導出した。その結果、赤外と紫外の固定点が互いに消失することによりスケール不変性が敗れる挙動について明らかにした。更に、シミュレーションとの比較を念頭に、SU(3)およびSU(2)QCDにおいて、非摂動的ベータ関数の評価、固定点での異常次元の評価、クォーク質量のスケーリング則の評価を行った。 一方、標準理論のHiggs粒子が発見され、その質量が比較的軽いことが判明した。そこで、平成25,26年度は、主にHiggs場の有効ポテンシャルの非摂動的評価について考察した。特に、摂動的くり込み群を用いて改善した有効ポテンシャルと、非摂動的くり込み群により導出される有効ポテンシャルの解析的関係や、摂動的繰り込み群によって評価されるHiggs有効ポテンシャルの信頼性について考察を与えた。この考察はQCDのカイラル相構造の解析とも関連しており、今後本研究の課題にも役立つと考えられる。
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