研究課題/領域番号 |
24540276
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石川 健一 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60334041)
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キーワード | 素粒子(理論) / 格子QCD |
研究概要 |
前年度に判明した逐次緩和法による前処理の無駄な計算の排除は性能を落とさずに実装することは困難であると判断し、本年度は格子QCDの基本である物理量の期待値の計算をカイラル対称性を保ちつつ如何に効率よく行うことができるかに立ち戻ることとした。 具体的にはオーバーラップ型作用素の五次元有効形式ドメインウォール型を用いると、カイラル対称性は近似的になるが、正確なカイラル対称性を保つよりも圧倒的に計算量が減ることに着目した。配位生成アルゴリズムであるハイブリッドモンテカルロ法(HMC法)では近似カイラル対称性を持つ五次元有効形式ドメインウォール型フェルミオンを用い配位を生成し、物理量の計算時に再重み付け法(Reweighting 法)を用いることで正確なカイラル対称性を保った物理量の計算を行なうことができる。この際の全体の計算はほぼHMC法で費やされるため近似カイラル対称性のHMC法を行い計算量(およそ1/10のオーダー)を削減できる。 以上のことに着目し、実際にクエンチ近似であるが、8x8x8x32の格子サイズで再重みづけ因子(分布の重なりを修正する因子)をさまざまなカイラル対称性の近似度合いについて計算し、再重みづけ因子の揺らぎを調べた。結果として揺らぎが大きいことが分かった。特に因子がゼロに近い場合再重み付け法はうまくいかない。今回の研究では、近似カイラル対称性の演算子と正確なカイラル対称性の演算子の間の再重みづけ因子において、因子の値がゼロに近くなる(1/100のオーダー)ものがあることが分かった。この原因はオーバーラップ核にゼロに近い固有値が表れ、近似カイラル対称性の近似度が悪いものが表れ、正確なカイラル対称性演算子と近似カイラル対称性演算子のかい離が大きくなるためだと分かった。この再重み付けに関する研究は国際会議Lattice2013で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度報告のように逐次緩和法は困難であった。予備的に用意していたRed-black法は1ノード版はすでにあるが、Red-Balck法並列版と重複領域のある領域分割シュワルツ法並列版の実装が進んでいない。 私自身の研究時間の確保が困難であったことと、プログラム開発を共同で研究する大学院生が大学を去られたことが挙げられる。 計算機システムの発展やシステム環境の変化についていけていない部分もある。 以上のことから、本年度は高度なプログラムを必要としない研究であり、かつ、格子QCD計算の高速化に寄与できる研究を行ったしだいである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行った再重み付け法も困難があることが分かった。原因はオーバーラップ核演算子にゼロに近い固有値が表れることであった。このような固有値が出ないように分配関数の重みを変形させる方法があるが、これはゲージ場のトポロジーの変化を抑制することになるので望ましくない。ゼロに近い固有値が表れることは本質的であり避けようがないと思われる。 現在、モンテカルロ法でトポロジーの変化を推進する方法として境界条件を周期的境界条件でなく自由境界条件やそのほかの境界条件にするという提案がなされている。私はシュレーディンガー汎関数法(SF法)という方法で時間方向に境界条件のある方法が、この再重み付けに対してどのように影響があるかに着目している。H26年度は再重みづけ法をSF法の枠組みで行った場合どのようになるか研究する。 プログラム開発は引き続き努力する。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際会議出席のための旅費の見積もりが本研究費申請時の概算より超過し、人件費謝金分から回し、また本年度に予定していた作業が大学院生が去られたため作業ができず人件費謝金が使用できなかったため。 次年度の国際会議出席のための旅費として使用する。
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