宇宙においてブラックホール候補天体はたくさん発見されているが,事象の地平線をもつという意味のブラックホールを観測的に検証することは困難である.ブラックホール天体を観測的に検証するためには,一般相対論で記述されるブラックホール時空の周りで起こる物理現象を観測することであるが,ブラックホールの周りの特徴的な現象として,粒子の最内安定円軌道の存在や,光の束縛軌道の存在がある. 一般的なブラックホールであるKerrブラックホールは,定常軸対称性を表すキリングベクトルに加えて,キリングテンソルをもつので,粒子や光の測地線に沿って3つの保存量が存在するので,軌道を積分系の形で求めることができる. この性質を用いてKerrブラックホールにおける光の束縛軌道を求め,その安定性を定量的に評価した.その結果,ブラックホールの撮像観測で期待される「ブラックホールの影」の周りに明るいリング状の明輪が形成され,その明るさの角度分布によってブラックホールの自転パラメーターが決定できることを明らかにした.特に,ブラックホールとして自転が最大となる,最大回転Kerrブラックホールでは,事象の地平面近傍に光の束縛軌道が存在し,その不安定さは著しく小さくなる.このため,光線束の断面が広がらず,周回した光が暗くならずに観測できる可能性がある.また,この光は,Kerrブラックホールの引きずり効果により,大きな重力的ファラデー効果を受け,偏光面が回転することが期待される.これらは,近い将来実現されるであろう,ブラックホールの観測に大きな示唆を与えると考えられる.
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