重力定数 G は、重力の強さを決める基本的な物理定数である。しかしながら近年、統一理論や重力理論の変更の可能性の観点から、その時間変化の可能性が考えられている。他の3つの相互作用(電磁気力、弱い力、強い力)と比べて、重力は極端に弱く、長距離・大質量の場合に効果が顕著になる力である。星や宇宙の構造・進化においては重力が決定的に重要な役割を果たす。素粒子の統一理論の有力候補である弦理論を含む変更された重力理論では一般的に重力定数が変化しうる。そこで、様々な観測による基本定数の時間変化への制限が理論構築・棄却に大きな役割を果たしうる。
本年度は、宇宙背景放射(CMB)による重力定数の変化の制限のテーマに取り組んだ。CMBの温度揺らぎは、バリオンと相互作用している光子中を伝わる音波(疎密波)によるものである。 G が大きくなると宇宙の膨張率が早くなるので、膨張の時間スケール、さらにはその間に光が進む距離も短くなる。したがって、宇宙の中性化が起こる時期が早まり、その間に音波として伝播していたバリオンの進む距離も短くなる。観測される揺らぎの空間的パターン(波長)は小さくなる。我々が以前行ったCMBの揺らぎのデータ(WMAP 1st year)の解析をPlanck衛星による最新のデータを用いて行った。以前の結果よりGの変化に対して一桁強い制限(0.48%以下)が得られた。また、この結果は宇宙の曲率を変えてもほとんど変わらないことが明らかになった。
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