本研究計画では、超弦理論との関連で興味の持たれる高階微分を含む重力理論が重力の量子論として意味のある理論になる可能性を探り、またそれを検証することを目的としている。これに向けて、今年度は、主に4次元またはそれ以上の次元の曲率の2次の項を含む重力理論において、計量の揺らぎを新しいやり方で定義し、厳密くりこみ群の手法を用いて、紫外で結合定数が非自明な固定点に収束することを示した。この性質は漸近的安全性と呼ばれる。この結果、この計量の新しいパラメトリゼーションは、今までのやり方にあった不備な点を改良し、物理的に意味のある結果を与えることがわかった。次いで、スカラー曲率の任意関数f(R)に対して、漸近的安全性の条件はf(R)に対する微分方程式を与えることを発見した。今までも同様の方程式が考えられていたが、非物理的な特異点があるため意味のある結果が得られるかどうか不明であった。これに対し、我々の計量のパラメトリゼーションを用いた場合には、それまでの結果が改善され、厳密な解が存在することを示した。非常に面白いことに、この解析の結果、現在初期宇宙に起こったと考えられているインフレーションを与える理論が、自然に出てくることを発見した。これは非常に広いクラスの理論空間で、漸近的安全性が満たされることを確かめたことになり、またそれが現実の宇宙を記述するものであることを示唆しており、このアプローチによる量子重力理論の定式化とその検証へさらに一歩近づいたことになる。いずれも重力の量子論の検証に向けての前進と言える。また、本研究費を用いて、イタリアのトリエステにあるSISSAのRoberto Percacci 教授を招聘して共同研究を行った。
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