研究課題
基盤研究(C)
加速器を使った素粒子実験は超高度化・超精密化し、より精密な実験データを測定することができるようになり、標準模型からの小さなズレの測定や標準模型を超える粒子の探索が研究の焦点となっている。本研究の目的は、そのような高精度の実験に対応できる精密な理論的予測値を得るために、2ループ高次補正まで含んだ素粒子反応断面積の数値計算法を開発することである。平成24年度は、2ループ積分で外線の数が2、3および4(セルフエネルギー型、バーテックス型、およびボックス型)で内線の質量が重い場合を例にとり、完全に数値的に計算する方法DCM(Direct Computation Method、直接計算法とよぶ)によりループ積分の結果が良い精度で得られる事を確認した。これにより、DCMの基本アルゴリズムが動作することの実証ができた。電弱相互作用の物理プロセスの場合、さまざまなスケールの物理パラメータをもつファインマングラフが現れる。DCMは完全に数値的な方法であるため、原理的には任意のパラメータについて適用可能である。しかし、パラメータの値によっては、計算時間が長くなるという現実的な課題に直面する。これに対しては、DCMの並列アルゴリズムの開発を行い、マルチコア計算機での並列計算に対応できるように改善した。さらに、最近のハイパフォーマンス計算分野で一般的になってきたGPGPU(アクセラレータボードの一種)上で並列計算を行うように機能の追加を行った。2ループ積分で外線の数が2、3の場合を例に、並列化されたDCMの性能評価を実施し、計算時間が短縮できることを確認した。超大規模な計算となる2ループバーバ散乱へ応用するにはさらなるアルゴリズムの改善が必要であるが、並列化されたDCMの基本的な機能が動作することを確認したことは、着実な進展であると言える。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、DCMの開発において以下の二つのことを達成できた。1、数値計算アルゴリズムの基本性能の確認:2ループ積分で外線の数が2、3および4(セルフエネルギー型、バーテックス型、およびボックス型)で内線の質量が重い場合を例にとり、完全に数値的に計算する方法DCM(Direct Computation Method、直接計算法とよぶ)によりループ積分の精度の良い結果を得た。これにより、DCMのアルゴリズムが2ループ積分に有効であることを示せた。2、計算時間の短縮のための並列アルゴリズムの開発:DCMは完全に数値的な方法なので、原理的には任意の質量の値をもつファインマングラフのループ積分計算に適用できる。しかし、一方で質量などの物理パラメータの値によっては、計算時間が長くなるという課題があることが明らかになっている。この課題を克服するために、DCMの並列アルゴリズムを開発し、マルチコア計算機での並列計算に対応できるようにした。あわせて最近のハイパフォーマンス計算分野で一般的になってきたGPGPU(アクセラレータボードの一種)でも並列計算ができるように機能を追加した。
平成25年度の前半は、平成24年度に得たDCMの基本機能の実証結果を、中間的な研究成果としてまとめることに注力する。具体的には、国際会議で成果の発表を行い論文としてまとめることを計画している。平成25年度の後半は、2ループボックス型積分(外線の数が4)で、内線に電子などの質量の軽い粒子を含むグラフについてDCMで精度の良い積分結果を得られるかどうかを検証する。電子の質量の大きさ(0.0005 GeV)と衝突エネルギー(1TeVなど)の値の間に大きなひらきがあるため、スケールが大きく異なる数値を取り扱う計算をDCMで実施することになる。一般的には、このような場合は数値計算は不安定になり、積分計算は困難性が高くなると予想されるが、その原因を詳しく調査し対策を検討する計画である。並行して、赤外発散をもつ2ループ積分に着手する。手法としては、仮想的な微小質量を光子に与える方法を用いる。これまでに1ループ積分で得た経験から、赤外発散をもつ2ループ積分では、桁落ちにより精度が失われるおそれがあることがわかっている。対策として、浮動小数点計算の精度を倍精度から4倍、8倍精度へと向上させて桁落ちをふせぐことを検討する。具体的には、多倍長演算ライブラリの使用や、連携研究者の石川が開発する多倍長演算専用アクセラレータボードを利用することを計画している。平成25年度の研究体制は以下の通りである。研究代表者:湯浅富久子(KEK計算科学センター准教授)連携研究者:石川正(KEK計算科学センター准教授)、加藤潔(工学院大学教授)、清水韶光(KEK名誉教授)、栗原良将(KEK素核研講師)、藤本順平(KEK素核研研究機関講師)
1、次年度使用額が発生した理由:1年半ごとに開催される国際ワークショップACAT(Advanced Computing and Analysis Techniques in Physics Research)が平成24年度中には開かれず、平成25年5月に中国で開催されるという案内が平成24年10月以降にあった。この国際ワークショップは、本研究のテーマとなっているループ積分の専門家が多く参加する重要な会議であるため、研究代表者あるいは連携研究者が当該会議に参加する事を予定していたが、開催時期の都合で次年度での活動とせざるをえなくなった。この変更に備えるため、ワークステーションを購入した物品費の残額などを次年度使用額とすることとした。2、平成25年度の研究費の使用計画:(1) 中国(5月)およびロシア(6月)で、本研究と関連の深いテーマの国際会議が開催される。これらの会議に参加し、平成24年度に得た成果の発表を行うとともに会議に参加する研究者らと情報交換を行う計画である。すでに研究代表者ならびに連携研究者が、これらの国際会議に参加申し込みを行っている。このため、本年度の研究費のうちの大部分を外国旅費として計上している。(2) 国際会議などへの参加料を計上している。(3) 研究体制内での研究打ち合わせのため、国内旅費を計上している。
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