研究課題/領域番号 |
24540292
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
湯浅 富久子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 准教授 (00203943)
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キーワード | 2ループ高次補正計算 / ファインマングラフ / 数値積分法 / 摂動法 |
研究概要 |
加速器を使った素粒子実験は超高度化・超精密化し、精度の良い測定データが得られるようになってきた。昨年には、欧州原子核研究機構(CERN)のLHC加速器でHiggs粒子が発見され、高エネルギー物理実験における精密測定は一段と高いステージを迎えている。これに伴い、素粒子物理学における標準模型からのズレの測定や標準模型を超える模型での新粒子の探索などのために、測定データを非常に精密に解析することが求められるようになってきた。本研究の目的は、そのような解析に対応できる精度の高い理論予測値を与えるために、2ループ高次補正まで含んだ素粒子反応断面積の数値計算法を開発することである。 平成24年度には、2ループ積分で外線の数が2、3、4で内線の質量が重い場合を例に、完全に数値的にループ積分を計算する方法DCM(Direct Computation Method)の基本性能を確認した。並行してDCMに適用する並列アルゴリズムの研究に着手した。平成25年度には、2ループ積分を例にとり、DCMの並列プログラムを開発した。マルチコア計算機およびスーパーコンピュータを用いて性能評価を行い、計算時間が大幅に短縮できることを確認した。 今後一層重要になってくる電弱相互作用の物理プロセスの場合、さまざまなスケールの物理パラメータをもつファインマングラフが現れるが、これをDCMで取り扱えるようにすることが本研究の主眼である。特に赤外発散をもつグラフでは、計算時間の長大化や数値計算における桁落ちの発生など困難があると予想されるが、これに対しては並列プログラムの効率化や多倍長精度計算などの最新の計算技術をとりこんで解決していきたい。平成24,25年度でDCMの並列プログラムの開発が一定の範囲まで進められたことは、着実な進展であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初期の段階では次の二つのことを実施した。1、数値計算アルゴリズムの基本性能の確認:2ループ積分で外線の数が2、3および4(セルフエネルギー型、バーテックス型、およびボックス型)で内線の質量が重い場合を例にとり、完全に数値的に計算する方法DCM(Direct Computation Method)によりループ積分の精度の良い結果を得た。これにより、DCMのアルゴリズムが2ループ積分に有効であることを示せた。 2、計算時間の短縮のための並列アルゴリズムの開発:DCMは完全に数値的な方法なので、原理的には任意の質量の値をもつファインマングラフのループ積分計算に適用できる。しかし、質量など物理量の値によっては、計算時間が長くなる。また積分の次元が増えると数値積分に時間がかかるので、並列計算により高速化する開発に着手した。 DCMでは数値積分法と数値外挿法を組み合わせて用いるが、精度良い方法であれば手法は問わない。これまで、Gauss-Kronrod求積法による最適型数値積分プログラム(DQAGE)を用いるDQ-DCMと、二重指数関数型積分法(Double Exponential Formula)を用いるDE-DCMの二つを開発してきた。DE-DCMは台形公式によるため、並列化にむいている。平成24年度にはこれを並列化し、GPGPUを用いて性能評価した。 DQ-DCMについては、平成25年度前半に協力研究者の米国ウェスタンミシガン大学のエリーゼ・ドゥドンカー教授と並列化に取り組んだ。OpenMPというスレッドを使う並列技法を用い、DQ-DCMの高速化を可能とした。2ループ積分ボックス型を例にプログラム開発を行い、マルチコア計算機で64スレッドを使い50倍程度高速化することに成功した。平成25年度後半には、前年度に実施したDE-DCMの並列化と平成25年度に実施したDQ-DCMの並列化について論文としてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度前半には、前年度までに開発したDE-DCMおよびDQ-DCMの並列プログラムを進展させ、赤外発散をもつケースやさまざまな運動量と質量をもつ2ループ積分に対応できるようにする。赤外発散を取り扱うには、通常の倍精度計算では十分でなく、4倍、6倍、8倍精度の浮動小数点計算が必要になることがこれまでの研究でわかっている。多倍長精度計算は、現在はソフトウェア的に実現するのが一般的であり計算時間が一層長くなることが予想される。この困難性を低減するために、並列化に対応できる多倍長計算法ライブラリを利用する計画である。並列化可能な多倍長精度計算ライブラリと並列化DCMを組み合わせ、高度化されたDCMを開発することが前半の研究の目標である。平成26年度後半には、高度化されたDCMの性能評価を行う。性能評価は所属研究機関(KEK)のスーパーコンピュータ、マルチコア計算機および加速ボード付き計算機で実施する。性能評価の後に、高度化されたDCMを素粒子反応自動計算システムGRACEへ組み込む。応用としては、2ループバーバ散乱を対象とすることを予定している。 これまでも本研究で得られた成果を中間発表し論文にまとめているが、平成26年度は本研究の最終年度にあたるため、3年間全般にわたって得られた研究成果を発表する計画である。具体的には、夏以降に開催されるACAT2014やCCP2014などの国際会議や国内の学会で成果発表する予定である。並行して論文作成やホームページでの成果公表の作業も進めていく計画である。 平成26年度の研究体制を以下に示す。 研究代表者:湯浅富久子(KEK計算科学センター准教授) 連携研究者:石川正(KEK計算科学センター准教授)、元木伸治(KEK計算科学センター協力研究員)、加藤潔(工学院大学教授)、清水韶光(KEK名誉教授)、海外の協力研究者:エリーゼ・ドゥドンカー(米国ウェスタンミシガン大学教授)
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、直接経費1,106,004円から旅費と会議登録料を支出した。 当該年度には、国際会議であるACAT2013(中国、北京)、QFTHEP2013(ロシア)などへ参加するために研究代表者(湯浅)と連携研究者らが出張した。さらに研究打ち合わせのために国内出張を行った。このため旅費として計922,330円を支出した。また、155,590円を会議登録料として支出した。為替の変動や航空運賃の変動により、差額28,084円が次年度使用額として生じた。 平成26年度は、「今後の推進方策」で述べたように、DCMプログラム開発の継続と国内外で研究成果の発表を行う予定である。今回生じた次年度使用額28,084円は、平成26年度の経費と合算し、出張のための旅費および国際会議登録料の一部として支出する計画である。
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