研究課題/領域番号 |
24540293
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
関野 恭弘 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究員 (50443594)
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研究分担者 |
二宮 正夫 岡山光量子科学研究所, その他部局等, 所長 (40198536)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / デンマーク |
研究概要 |
(1)宇宙背景輻射(CMB)の観測による超弦理論の検証を目指した研究を行った。超弦理論によると、我々の宇宙は、大きな真空エネルギーを持った宇宙の中でバブルの生成によって出来た事が示唆される。関野は、Chen-Pin Yeh氏(台湾・国立東華大学)と共同で、バブルの生成がCMBの温度揺らぎスペクトラムに与える影響を調べ、赤外部分が抑制される可能性を特に詳しく検討した。関野と二宮は、2011年に川合光氏(京都大学)らと共同で提案した、超弦理論に存在する多数の場の量子揺らぎによるCMB揺らぎの生成メカニズムの研究を進め、揺らぎが時空に与える反作用を解析した。二宮は、時空のダイナミクスの解明を目標に、Holger Nielsen氏(ニールス・ボーア研究所)と、弦の場の理論の新しい定式化を行った。 (2)超弦理論に基づく行列模型によってブラックホールの微視的理論を構成する事を目指した研究を行った。超弦理論では、超対称性とゲージ対称性を持った行列の量子力学がブラックホールの量子論を与えると考えられているが、この行列模型は非常に複雑で、その性質の理解は進んでいない。そこで、関野は、Robert Hubener氏(ベルリン自由大学)と共同で、簡単化されたボソニックな行列模型を調べ、そのエネルギー固有状態を構成した。行列模型を重力理論として解釈するには超対称性が不可欠なため、我々の模型の性質全てがブラックホールに対応するわけではないが、揺らぎが熱化する過程における定性的振る舞いに関しては、正しい結果を与えると考えられるので、それを詳しく考察した。また、関野は、笹井裕也氏(明治学院大学)、松尾善典氏(KEK)とともに、超弦理論におけるD0ブレーンブラックホールの流体的性質を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】に記したテーマ(1)に関して、関野とYeh氏による宇宙背景輻射スペクトラムの研究は、赤外スペクトラムの抑制という具体的な観測的指標の詳細な解析の段階に入り、来年度中に結果をまとめられる見通しである。関野、二宮、川合氏らによる揺らぎの反作用の研究は、宇宙初期のインフレーションの起源に関連した難問であるが、着実に進展している。また、二宮は、Nielsen氏と長年研究を続けてきた場の理論の新しい定式化を、今年度の集中的な共同研究の結果、論文として発表する事が出来た。 (2)に関して、関野とHubener氏らによる行列模型の解析は、これまで解かれていなかった模型を解く事に成功したという意味で大きな成果を挙げられた。現在、論文を準備中で、日本物理学会において、これまでの結果を発表した。関野、笹井氏、松尾氏によるブラックホールの流体的性質の研究に関しては、新たな視点からの定量的結果を得る事が出来た。現在、論文を準備中で、日本物理学会において、これまでの結果を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】のテーマ(1)に関して、関野は、Yeh氏と宇宙背景輻射スペクトラムの解析を進め、現在観測されている、温度揺らぎの赤外成分の異常な抑制が、宇宙の起源と関係しているかどうか詳しく検討する。また、関野と二宮は、川合氏らと宇宙の揺らぎから時空への反作用の解析を行い、宇宙初期のインフレーションが終わるメカニズムを解明する事を目指す。二宮は、Nielsen氏と提案した新しい弦の場の理論によって様々な物理量の計算を行う。 (2)に関して、関野は、Hubener氏らと行列模型のエネルギー固有状態に関する論文を完成させ、その結果を用い、特定の初期状態がどのように時間発展するか調べることにより、熱化の過程を調べる。ブラックホールのホライゾン上では、通常の場の理論より早い速度で揺らぎが熱化すると考えられているが、それを行列模型から導く事を目指す。また、関野は、笹井氏、松尾氏と、D0ブラックホールの流体的性質に関する論文を完成させる。これは、重力理論を用いたブラックホールのホライゾンの性質の解析であるが、精密な結果を導き、行列模型で期待されるべき量を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
笹井氏をはじめとする共同研究者を関野の所属機関であるKEKに招聘するための国内旅費(約20万円)、Hubener氏をKEKへ招聘するための海外旅費(約30万円)、二宮がニールスボーア研究所を訪問してNielsen氏と研究打合せを行うための海外旅費(約50万円)を使用する。また、物理学、数学関係の参考資料購入費(約10万円)、研究成果の雑誌投稿費(約10万円)を使用する。今年度、消耗品費が予定額より若干少なく済んだための残額21,983円を次年度の消耗品と合わせて使用する。
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