研究課題/領域番号 |
24540293
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
関野 恭弘 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究員 (50443594)
|
研究分担者 |
二宮 正夫 岡山光量子科学研究所, その他部局等, 所長 (40198536)
|
キーワード | 素粒子理論 / 超弦理論 / 宇宙論 / ブラックホール / 国際研究者交流 / デンマーク |
研究概要 |
(1)超弦理論が示唆する初期宇宙像とそれが現在の宇宙に与える影響の解明を目標に、以下の研究を行った。(1-a)関野は、磯暁教授(KEK)と青木一准教授(佐賀大学)と共同で、宇宙初期のインフレーション期およびそれ以前に生成された量子揺らぎが現在の宇宙の加速膨張を引き起こしている可能性を追求した。加速膨張の実現には至らなかったが、量子揺らぎが暗黒エネルギーに相当する大きさに成長しうることを示した。(1-b)関野と二宮は、前年度に川合光教授(京都大学)、羽原由修(岡山光量子研究所)と発表した論文の研究を延長し、インフレーション期の量子揺らぎが時空の発展に与える反作用の研究を進めた。(1-c)関野は、Chen-Pin Yeh助教(台湾・国立東華大学)と、バブルの生成によって出来た宇宙における宇宙背景輻射(CMB)のスペクトルの研究を進めた。 (2)超弦理論によると、ブラックホールは行列模型(行列を基本的変数とする量子力学)によって記述されると考えられている。その確立を目指して以下の研究を行った。(2-a)超弦理論に現れる超対称行列模型の性質は複雑でその性質はあまり理解されていない。関野は、Robert Hubener研究員、Jens Eisert教授(ともにベルリン自由大学)と共同で、簡単化されたボソニックな行列模型においてエネルギー固有状態を構成し、量子情報で知られていた定理の拡張により、揺らぎの平衡化に関する厳密な結果を得た。(2-b)関野は、笹井裕也助手(明治学院大学)、松尾善典研究員(KEK)とともに、超弦理論のD0ブレーンブラックホールの流体的性質を調べた。(2-c)二宮は、Holger Nielsen名誉教授(ニールス・ボーア研究所)と共同で、超弦理論を離散化された弦の世界面を用いて再構成した。この構成法は、弦と行列の直接の関係を明らかにするうえで有用になる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】に記したテーマそれぞれに関して、研究が進展している。(1)の超弦理論に基づく初期宇宙論の研究では、(1-a)の論文を発表し、初期宇宙における揺らぎが現在の宇宙に与える影響に関する新しい提案を行うことができたことは、当初の計画以上の成果である。(1-b)の量子揺らぎの時空への反作用の研究に関しては、共同研究者と着実に研究を進めている。(1-c)のバブルの生成によって出来た宇宙における宇宙背景輻射スペクトルの研究については、本年度中に成果を発表することはできなかったが、関連した内容を扱っている(1-a)のほうが早くまとまる見込みとなったため、そちらを先に完成させた。(1-c)の研究は、PLANCK衛星等の観測で指摘されている赤外スペクトラムの異常な小ささが理論的に説明できる可能性があるという点で重要であるので、慎重に研究を進めている。 (2)のブラックホールの研究に関して、(2-a)の行列模型のエネルギー固有状態の構成に関する論文を完成できた。これまで解かれていなかった模型を解いて、その量子情報的性質を明らかにすることができたことで、当初の目標であった、ブラックホールのダイナミクスの量子情報的観点からの理解に向けて大きく前進した。また、前年度から進めていた、(2-b)のブラックホールの流体的性質に関する研究、および、(2-c)の超弦理論の離散的世界面を用いた再構成に関する研究に関して、それぞれ、論文を完成して学術誌に発表できた。 以上をかんがみて、総合的な研究の達成度は、当初の目標に向けて順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】に記したテーマそれぞれについて、これまでの研究を延長して、研究目標の達成を目指す。(1-a)の研究で、宇宙初期の量子揺らぎが現在の宇宙のエネルギー密度の大きさ程度まで成長しうることを示したが、加速膨張の実現には至らなかった。しかし、宇宙初期のインフレーション期以前に生成された揺らぎを詳しく考慮することにより、加速膨張の源である暗黒エネルギーが得られる可能性があることも分かった。今後、その可能性を詳しく検討し、暗黒エネルギーの理論的説明を目指す。(1-b)の量子揺らぎが時空に与える反作用に関する研究を進める。物質場の揺らぎと背景時空のダイナミクスが互いに影響しあう複雑な方程式系を解くことになるが、比較的単純な場合である、共形不変な物質場に関する結果をまず発表することも考えている。(1-c)の宇宙背景輻射スペクトルの研究を完成させ、PLACNK衛星等の観測との比較を行う。 (2-a)の研究で得られた行列模型のエネルギー固有状態に関する研究を発展させる。ここで考えた行列模型はゲージ群や時空の次元が小さいという点で特別なものであったが、ここで開発した手法を用いて、より現実的なブラックホールを記述する行列模型を解析する。また、(2-a)の研究で得られた揺らぎの平衡化に関する定理を応用して、ブラックホールの地平面上では通常の場の理論よりも早く平衡化がおこるという性質を、行列模型の立場から説明する。(2-b)の研究では、重力理論を用いてブラックホールの流体的性質を調べたが、今後、その行列模型による再現を目指す。(2-c)の研究で、二宮とNielsen教授は、超弦理論を離散的世界面を用いて再構成した。離散的世界面を持った弦という描像は行列模型からも自然に導かれるので、今後、Nielsen-二宮の構成法と行列模型の関係を詳しく調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
消耗品および旅費が想定していたより少なくすみ、当該年度の支払い額すべてを使わずに研究遂行することができたため、翌年度に使用することとした。 次年度使用額は、消耗品費にあてる。
|