超弦理論に基づき、(1)初期宇宙像とその現在の宇宙への影響の解明、(2)ブラックホールの微視的理論の構成、の2つを目標に、以下の研究を行った。(1)超弦理論に存在する多数の場の宇宙初期のインフレーション期の量子揺らぎが、どのような宇宙背景輻射(CMB)の温度揺らぎにむすびつくかを明らかにした(H24年度の関野、二宮、川合光教授(京都大学)らによる研究)。また、その研究を発展させ、揺らぎが時空に及ぼす反作用を調べた(H26年度の二宮、川合教授らによる研究)。さらに、インフレーション期に生成された量子揺らぎが現在まで残存し暗黒エネルギーとなる可能性を指摘し、宇宙項問題へのアプローチを行った(H25年度の関野、磯暁教授(高エネルギー加速器研究機構)らによる研究)。超弦理論によると、我々の宇宙は量子的トンネル効果に伴うバブルの生成によって生まれたと考えられるが、関野はそのような宇宙におけるCMBスペクトルの研究を進めており、今後、発表予定。(2)超弦理論によると、ブラックホールは、ソリトン的物体であるDブレーンの集まりであると考えられている。Dブレーンは、その座標の非可換性やゲージ対称性といった、通常の物質にはない特徴を持つが、その性質は解明途上である。本研究では、「ゲージ/重力対応」(Dブレーン理論と重力理論との等価性の予想)に基づき、D0ブレーンがつくるブラックホールの事象の地平面上の流体的性質を調べた(H25年度の関野、笹井裕也助手(明治学院大学)らとの研究)。また、ブラックホール地平面上のダイナミクスの解明を目指して、Dブレーン理論を簡単化した行列模型のエネルギー固有状態を求め、揺らぎの平衡化に関する性質を明らかにした(H26年度の関野、Eisert教授(ベルリン自由大学)らによる研究)。
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