ニュートリノを放出しない2重ベータ崩壊事象の探索を目指して、発光性配位子によるジルコニウム錯体を含有した液体シンチレータの開発を行った。これまでにジルコニウムODZ錯体を合成し、発光スペクトルのピーク波長は430nm、吸収スペクトルのピーク波長は250nm/290nm/340nmにあり、最大発光は250nmの励起によるものであることがわかった。ガンマ線による事象観測から、ODZ錯体の発光量は標準シンチレータの10%の光量であり、量子収率は13.2%が得られた。量子収率を向上させるためには、ベンゾニトリルよりも短波長側に発光し、ODZ錯体が2wt.%以上溶解する溶媒が必要であったが現存しなかった。そこで、量子収率の向上が期待されるトリアジン基を導入したジルコニウム・キノリノール錯体(Zr(Q-T)4)を合成した。 通常のジルコニウム・キノリノール錯体(ZrQ4)は、発光および吸収スペクトルのピーク波長がそれぞれ540nmと385nmであったのに対し、Zr(Q-T)4では、それぞれ520nmおよび260nm/300nm/395nmに存在し、発光波長が予想通り短波長側に移動したことを確認した。しかし、PPOを0.5wt.%加えたZr(Q-T)4含有の液体シンチレータではガンマ線による信号を観測できなかった。そこで、Zr(Q-T)4の量子収率を求めると12.0%であり、ZrQ4の11.5%と同程度しかなく、更に光電子増倍管の量子効率を考慮すると標準シンチレータの5.2%の光量しか得られないことがわかった。これは、ZrQ4の7.4%の光量と同程度の性能であった。 以上の結果から、発光性のODZ配位子及びトリアジン基を導入したキノリノール配位子によるジルコニウム錯体では、ガンマ線による発光量は標準シンチレータの10%以下であり、液体シンチレータの発光剤として必要な30%を超える量子収率が得られないことがわかった。
|