研究課題/領域番号 |
24540303
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷口 秋洋 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (10273533)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 不安定核ミュオン原子 / 重水素薄膜法 / ドライアイス模擬ターゲット / 放射性物質 / 挙動と制御 |
研究概要 |
ミュオン原子X線の測定は、原子核の電荷密度分布の知見が得られる手段の一つであるが、不安定核を対象とした実験は殆ど進展していない。最近、我々は、RIKEN-RALミュオン施設における安定核での実験で、重水素薄膜法によりミュオン原子が非常に高い効率で生成されることを確認したが、不安定核への研究には、重水素薄膜法における放射性物質の取扱いに関する技術開発の必要性も認識した。 本研究の目的は、その技術開発への基礎研究として、ドライアイス薄膜の模擬ターゲットと京都大学原子炉実験所のオンライン同位体分離装置(KUR-ISOL)からの不安定核ビームを用いて、重水素薄膜生成装置周辺での放射性物質の挙動を調べると共に、その制御方法を開発することにある。 平成24年度は、KUR-ISOLのビームラインで使用される装置を設計するための予備実験を行った。本研究の遂行には、高真空ビームラインに設置されるチェンバー内で、炭酸ガスからドライアイス薄膜を生成することが不可欠であり、小規模な実験装置を製作しドライアイス薄膜生成法が検証された。 薄膜生成法として、操作性や反復性(短時間で冷却・解凍を繰り返すこと)等を再検討した結果、その内部に液体窒素をフローさせて銅ブロックを冷却する方法を採用し、約1,000 ccの真空容器内に、銅ブロック(縦横25mm、厚さ10mm)とその冷却系及び炭酸ガス噴霧器を納めた装置が製作された。 実験の結果、液体窒素のフロー開始後10分程度で、銅ブロックは77Kに達し、真空度3×10^-6 Torr下で、銅ブロックに炭酸ガスを吹き付けたところ、その表面に(真空容器や炭酸ガス中に微量に含まれる水分が凍結したものではなく)ドライアイスの生成が認められ、フローを停止するまでの最大3時間に亘り、それが保持されたまた、ドライアイス生成に至るまでの細かな留意点や手順なども確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、重水素薄膜法の放射性核種への展開に向け、薄膜ターゲット周辺における放射性物質の注入・リリース時の挙動を調べ、さらにまた、その回収システムの開発やその有効性を検証することにある。 本研究の概要は、ドライアイス薄膜を模擬ターゲットとした不安定核ビームの注入体系を構築し、実際にKUR-ISOLからの放射性物質(RI)をドライアイス薄膜に注入した際、その散乱やターゲット解凍の際の拡散の状況をGe半導体検出器等により測定し、そしてまた、解凍の際、注入されたRIを回収するため、別に設置する冷却トラップを用いた回収システムを開発し、その有効性を検証することである。 平成24年度においては、当初、1.ドライアイス薄膜生成装置の設計・製作、2.放射性物質回収システムの設計・製作を行い、これらの機能を1つの真空チェンバーに納め、KUR-ISOLのビームラインに設置することを予定していたが、ドライアイス薄膜生成装置に関し、(1)炭酸ガス噴霧器の動作確認、(2)ドライアイスが生成される低温部(銅ブロック)の冷却特性の確認、(3)その生成条件(真空度や冷媒(液体窒素)の流速)の確認、(4)装置を使用する際の手順や留意事項の洗い出し等が必要とされたので、当該年度は、別途、小規模な実験装置を製作し予備実験が行われ、上記(1)~(4)について、現在考案されている生成方式がドライアイス生成対し有効に機能することを確認した。 (申請者が調べた範囲では、液体窒素温度周辺かつ10^-5~10^-6 Torr領域における炭酸ガスの状態図が不明であったが、この予備実験によりにこの条件下で炭酸ガスは固体であることが確認できた。)
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今後の研究の推進方策 |
実際にKUR-ISOLのビームラインに設置される装置を設計・製作する。この装置は、ドライアイス薄膜生成機能と放射性物質回収機能を有するが、ドライアイス生成機能は、平成24年度の予備実験の結果を考慮した上で、さらに冷却された銅ブロックが可動する仕組みも付加し、注入された放射性物質(RI)からの放射線を測定できるようにする。また、放射性物質回収システムは、液体窒素温度に冷却された金属をトラップとし、ドライアイス薄膜の解凍時にターゲット間近に置き、リリースされたRIを捕獲しようとするものであり、冷却状態を保ちつつ検出器の前に移動し、捕獲されたRIの量を測定できるようなものとする。 製作された装置については、オフライン・テストにおける総合的な性能試験を通して、操作手順を確認すると共に、機能上に問題点があれば改良した上で、KUR-ISOLのビームラインに設置し、再度、同様の性能試験を行う。 オンライン実験では、KUR-ISOLからの不安定核ビームを注入し、1.注入時の散乱成分の測定、2.解凍時に放出されるRIの挙動、3.解凍時のRIの回収方法の検証等について、放射線計測により定性的・定量的に行う。散乱成分測定では、散乱したRIビームをキャッチする衝立をドライアイスターゲット周辺に配し、RIの注入成分/散乱成分の比を求める。また、長めの半減期をもつ核種を注入することで、照射終了後に衝立を取り出し、より詳しい散乱分布を調べることもできるであろう。解凍時のRIの挙動については、解凍後、ターゲット上に残留する量やその他の場所への移動の有無についても調べる。そして、RIの回収方法については、冷却トラップ型放射性物質回収装置を用いて、リリースされたRIの冷却トラップへの回収効率を測定し、その有効性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
オンライン実験用の真空チェンバーの製作するため、1.ターボ分子真空ポンプ(約100万円)、2.真空用溶接ベローズ(50万円×3個)、3.直線導入器(25万円)、4.その他真空用部品等の購入を進める。また、連携研究者との打合せのため旅費を支出する。
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