研究課題/領域番号 |
24540303
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷口 秋洋 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (10273533)
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キーワード | 不安定核ミュオン原子 / 重水素薄膜法 / ドライアイス模擬ターゲット / 放射性物質 / 挙動と制御 |
研究概要 |
不安定核ミュオン原子からのX線観測は、不安定核の電荷密度分布の知見を得る実験手法の一つであるが、その研究は殆ど進展していない。近年、我々は、RIKEN-RALミュオン施設における重水素薄膜法を用いた研究において、希ガス元素のみならず、アルカリ、アルカリ土類、希土類の広範囲な元素(安定原子核)に対し、この方法によりミュオン原子が非常に高い効率で生成されることを確認したが、この方法を不安定核へ適用するには、放射性物質の取扱いに関する技術開発の必要性も認識した。 本研究の目的は、その技術開発への基礎研究として、ドライアイス薄膜の模擬ターゲットと京都大学原子炉実験所のオンライン同位体分離装置(KUR-ISOL)からの不安定核ビームを用いて、重水素薄膜生成装置周辺での放射性物質の挙動を調べると共に、その制御方法を開発することにある。 昨年度の予備実験において、真空中におけるドライアイス薄膜生成法として、炭酸ガスが吹き付けられる銅ブロックの冷却方法を検討し、銅ブロック内部に液体窒素をフローさせる方法を採用し、ドライアイス薄膜の生成が確認された。 平成25年度は、この結果を受け、KUR-ISOLに設置し不安定原子核ビーム(RIビーム)を注入するための装置の設計・製作を行った。 装置は、真空容器内でドライアイス薄膜を生成する2つの銅ブロックと銅ブロックに炭酸ガスを吹き付ける噴霧器などから構成され、これら3つの要素は、ベローズ式中空直進導入機に取付けられることにより、2つの銅ブロックは液体窒素フローで冷却しながら、半導体検出器が置かれる場所へ移動させることが可能となっており、炭酸ガス噴霧器は必要に応じて、銅ブロック前に出し入れできるようになっている。これにより、薄膜へのRIビーム注入及びその回収方法に関する実験が実施できると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、重水素薄膜法の放射性核種への展開に向け、薄膜ターゲット周辺における放射性物質の注入・リリース時の挙動を調べ、さらにまた、その回収システムの開発やその有効性を検証することにある。本研究の概要は、ドライアイス薄膜を模擬ターゲットとした不安定核ビームの注入体系を構築し、実際にKUR-ISOLからの放射性物質(RI)をドライアイス薄膜に注入し、その散乱やターゲット解凍の際の拡散の状況をGe半導体検出器等により測定し、そしてまた、解凍の際、注入されたRIを回収するため、別に設置する冷却トラップを用いた回収システムを開発し、その有効性を検証することである。 平成24年度においては、小規模な実験装置を製作し予備実験を行い、(1)炭酸ガス噴霧器の動作確認、(2)ドライアイスが生成される低温部(銅ブロック)の冷却特性の確認、(3)その生成条件の確認、(4)装置を使用する際の手順や留意事項の洗い出し等が行われた。 平成25年度においては、上記結果を踏まえ、KUR-ISOLのビームラインに実際に設置される、「ドライアイス薄膜生成装置」と「放射性物質回収システム」の機能を統合した装置が製作された。当初の計画では、平成26年1月を目途に、この装置をKUR-ISOLに設置し、RIビームを用いた実験を開始する予定であったが、KUR-ISOLが設置されている研究用原子炉(KUR)本体における関連設備の改修や原子炉の新規制基準(現状確認)への対応により、平成25年8月~平成26年3月までKURの運転が休止(当初の休止期間は平成25年8月~12月末の予定であった)されたため、RIビームを用いた実験開始は次年度からとなった。
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今後の研究の推進方策 |
KUR-ISOLのビームライン用に製作された装置は、ドライアイス薄膜生成と放射性物質回収の機能を備えているため、まず、オフラインでの総合的な性能試験を行うことにより、実機の性能や操作手順などを確認した上で、KUR-ISOLのビームラインに設置し、実験をしながら、必要に応じて装置の改良を行うことになる。オンライン実験では、平成26年度におけるKURの運転時間の許す限り、KUR-ISOLを用いたRIビーム注入実験を実施し、1.注入時の散乱成分の測定、2.解凍時に放出されるRIの挙動、3.解凍時のRIの回収方法の検証等について、放射線計測により定性的・定量的に行うことを計画している。しかしながら、研究用原子炉本体においては、平成26年度に新規制基準の適合確認審査が行われることから、KURの運転計画が非常に流動的であり、上記項目の優先順位については、その状況を見据えながら検討することとする。 各項目の実験方法については、現在のところ大きな変更は考えておらず、散乱成分測定では、散乱したRIビームをキャッチする衝立をドライアイスターゲット周辺に配し、RIの注入成分/散乱成分の比を求める。解凍時のRIの挙動については、解凍後、ターゲット上に残留する量やその他の場所への移動の有無についても調べる。そして、RIの回収方法については、冷却トラップ型放射性物質回収装置を用いて、リリースされたRIの冷却トラップへの回収効率を測定し、その有効性を検証することを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、装置の製作にあたり、当該年度においては、手持ちの小型真空ポンプを用いてその性能評価を行い、真空ポンプの購入を先送りしたため。 実機の性能を向上させるために、真空ポンプ(約100万円)及びその他真空用部品等の購入を進める。また、学会へ参加や研究補助者との打合せのため旅費を支出する。
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