ミュオン原子X線測定は原子核の電荷密度分布を探る有効な方法であるが、不安定核に対する実験は殆ど進展していない。近年、我々は、安定核を対象とした研究において、従来法に比べ10の5乗~7乗倍の高効率でミュオン原子を生成する重水素薄膜法を開発した。 しかし、高効率化されたものの、本手法を不安定核へ適用する場合、その放射能は未だ取扱いに十分な配慮を要するレベルではある。 本課題では、重水素薄膜法による不安定核ミュオン原子X線測定実験に向け、重水素薄膜を模擬したドライアイス薄膜中にオンライン同位体分離装置(KUR-ISOL)からの不安定核ビームを注入する雛形装置を製作し、様々な状況での放射性物質の振舞の理解や制御に関する知見の取得が目的とされた。 課題遂行には、ISOLの高真空状態下でドライアイス薄膜の作製が不可欠であり、初年度、銅ブロック内部に液体窒素を流し冷却した銅表面に炭酸ガスを吹き付け薄膜を作る方式を採用し、小規模なテスト装置を製作した。その結果、約3×10のマイナス6乗 Torr下でも、77Kの銅表面にドライアイスの生成が認められ、さらに、生成手順や保持条件等も確認された。この結果を踏まえ、「ドライアイス薄膜生成」と「冷却トラップ型放射性物質の回収」を統合した装置を製作しISOLに設置した。 当初、RIビームを用いた実験を繰返し実施する計画であったが、ISOLが附置されている研究用原子炉(KUR)が、設備改修や東日本大震災を契機とした新規制基準適合審査のため、殆ど稼働しなかった。しかし、僅かに得られた3日間のビーム実験で、重要な一里塚であった液体窒素冷却型トラップによる放射性物質の回収が試され、ドライアイス薄膜に注入された放射性物質(La-146)を、ドライアイスの昇華と共に銅ブロック上から一旦離脱させた後、別に設置された銅製冷却トラップ上に再凝集させることに成功し、放射性物質回収のための有効な手法が提示できた。
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