研究実績の概要 |
素粒子物理実験用位置検出器として、ドリフトチェンバー等の細い芯線を用いた検出器が用いられている。しかし、電子の増幅作用のため空間電荷が生じ、電子による雪崩が抑制されるため、高い計数効率や高い精度での実験が制約を受けている。このような問題点を克服するため半導体微細加工技術を応用したガス電子増幅器(GEM)の開発が行なわれている。この検出器はカプトンの両面基板に多数の細孔をあけ,その両面に金属を蒸着し,そこに高電圧を印加して細孔内の高電場を利用してガス増幅を得るものである。この一個,一個の細孔がガス増幅器として動作するので,芯線を利用した検出器と比べると正イオンによる空間電荷効果が少なく、高計数効率を有している。このGEMの極端条件下による動作確認のため55Feによる電荷分布と電子増幅率を中心に東北学院大学で実験を行った。実験に用いたGEMの大きさは10cm×10cm,厚さは50μm,100μmのカプトンの上下に銅を蒸着して電極として用い,細孔の径は70μm,間隔は140μmである。実験はAr(70)+CO2(30),CO2(20),CO2(10)の混合ガスとAr(100)を用いて2種類のGEMをシングルとタンデムにしたときの各印加電圧における増幅度の変化を求めた。これらの実験による知見から各混合ガスにおけるGEMの最適電圧条件を見いだす事が出来た。さらに岩手大学において、液体アルゴン三次元位置検出器(TPC)の基本的データを収集するため10リットルの高真空断熱容器を制作し、気相によるGEMの55Feによる実験を行なっている。これらの最終年度における実験から、気相に置けるGEMの最適な電圧条件を見いだす事が出来ると考えている。さらにTPCの電場整形用リングの製作を行い、電場整形用直流電源としてコッククロフト-ウオルトン回路を製作した。現在,極低温環境下でのGEMを実験中である。
|