研究課題/領域番号 |
24540315
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
三野 弘文 千葉大学, 普遍教育センター, 准教授 (40323430)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光誘起スピン偏極 / スピンイメージング / 半導体量子井戸 / 二次元電子ガス |
研究概要 |
光誘起スピン偏極電子の時間・空間応答の観測を液体ヘリウム温度から室温で行える顕微スピンイメージング計測システムを構築した。この計測システムは光誘起したスピン偏極電子のダイナミクスを高感度で観測できるポンプ・プローブKerr回転測定に顕微分光手法を取り入れる事で、時間・空間情報を同時に捉え、更にヘテロダイン検波によるポンプ・プローブ同一波長・光弱励起下での測定によって、擾乱を抑えた高感度スピン計測を可能としている。このシステムを用いて、ZnSe/BeTe半導体タイプII量子井戸の光生成二次元電子ガスのスピンイメージング計測を行い、4K~室温における温度領域で計測が可能であることを実証した。スピンイメージング計測の性能としては、空間分解能1μm、面内走査領域100μm四方を有する。しかしながら、現在のところヘテロダイン検波を用いているにもかかわらずポンプ光の散乱による影響が排除しきれていない問題がある。引き続き、光学系の改善等によりシステムの測定精度の向上に努める。 スピンイメージング計測を温度・磁場・光強度を系統的に変化させて行い、ZnSe/BeTe量子井戸における光生成二次元電子のスピン拡散と異方的なスピン歳差運動を調べ、スピン輸送に対するスピン軌道相互作用の影響を定量的に明らかにする。また、計測対象をGaAs、CdMnTe量子井戸の二次元電子ガスにも拡張し、g因子等の物理パラメータの違いがスピン輸送に及ぼす影響について調べる。更に、二次元電子のスピンドリフトの観測のため、光計測と電気伝導を同時に計る機構を装備したシステムへと発展させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半導体二次元電子ガスを対象に、光誘起電子のスピン輸送を高感度・高空間分解能で捉える顕微・時間分解カー回転測定システムの構築を行った。このシステムを用いて、ZnSe/BeTeタイプII量子井戸の光生成二次元電子ガスのスピン輸送計測を行い、4K~室温における温度領域で計測が可能であることを実証した。システムの構築において、作動距離の短い顕微レンズを用いたカー回転計測を低温で可能とする顕微鏡用連続流式クライオスタットを導入し、空間分解能1μm、面内走査領域100μm四方での光誘起スピン輸送計測を実現させた。磁場印加に関しては、サンプルフォルダー内にネオジウム磁石を設置することで、ファラデー配置であれば最大で0.5テスラ、フォイクト配置であれば0.2テスラの磁場の印加を可能とした。顕微光学系で問題となる、集光による励起密度の増大を低減し、更にポンプ・プローブ光の同一波長での励起(共鳴励起)を可能とするため、AO変調器を使用したヘテロダイン検波による周波数分離手法も導入し、数μWの光弱励起下での超高感度スピン計測を実現させた。
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今後の研究の推進方策 |
構築したスピン輸送計測システムは目標としていたスペックをほぼ満たしている。しかしながら、ポンプ・プローブ法をベースにしている計測システムであり、試料に対してプローブ光とほぼ同軸入射されるポンプ光の散乱の影響がヘテロダイン検波においては予想に反して排除しきれていない問題点がある。この問題を解決するため、周波数フィルターや光学系の見直しなどを行い、システムのS/Nの改善に努める。 スピン輸送計測を温度・磁場・光強度を系統的に変化させて行い、ZnSe/BeTeにおける光生成二次元電子のスピン拡散と異方的なスピン歳差運動を調べ、スピン輸送に対するスピン軌道相互作用の影響を定量的に明らかにする。また、計測対象をGaAs、CdMnTe量子井戸の二次元電子ガスにも拡張し、g因子等の物理パラメータの違いがスピン輸送に及ぼす影響について調べる。更に、二次元電子のスピンドリフトの観測のため、光計測と電気伝導を同時に計る機構を装備したシステムへと発展させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A)が生じた理由としては、サンプルフォルダー加工費を当初の予定より若干抑える事が出来たことと、旅費を使用しなかったためである。翌年度分の助成金と合わせた使用計画としては、各種半導体を対象とした測定及びシステム改善に必要な光学機器(部品)の購入費、低温寒剤費、研究会・打ち合わせ等の旅費、論文投稿費を予定している。
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